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[Book]人類の祖先は肉食動物の「獲物」だった?

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『人は食べられて進化した』/ドナ・ハート、ロバート・W・サスマン著(伊藤伸子訳)/化学同人刊/2200円+税

 アンリ・ルソーの描いた作品は一種「変」な絵ばかりである。「ジャガーに襲われた黒人」も変な絵である。凄惨な出来事を描いているようで、全く緊張感を感じさせないどころか滑稽味さえ覚える。襲われているのは黒人というより、ほとんど人のシルエットのようにしか描かれていない。奇怪な葉をつけた植物が生い茂り原色の花々が咲く密林の中で、その平板な黒い影に飛びつくジャガーの背中にはなぜかナイフが刺さっていたりもする。本書のカバーに使われているのはその絵(の一部)だ。

 人の祖先は500~700万年ほど前にチンパンジーとの共通の祖先から分かれ、独自の進化の道を歩き始めた。それまでは森に住み、危険があれば樹上に逃げることができた。しかしこのころ地球は寒冷化が進み、乾燥化したため安全で食べ物の豊かな森が縮小した。人類の祖先は森を離れ、サバンナに出ることを選択した類人猿の一族だったのだ。しかし、そこにはライオンやヒョウやチーターやハイエナ(の祖先)がいた。わが祖先はそうした捕食者におびえ、しばしば彼らに襲われながらも生き延びた(だから私たちがいるわけですね)。彼らはさまざまな武器を発明し集団で他の動物を襲って食べる「狩る人=Man the Hunter」ではなく、むしろ「狩られる人=Man the Hunted」だったというのだ。著者は人類がいかに猛獣の餌食になってきたかを、さまざまな証拠とともに示す。しかしそのことが人類に進化をもたらした、というのが簡単にいってしまえばこの本の主題だ。

 したがって人間にとって恐ろしい猛獣も、われわれの知恵を発達させることに貢献してきたのだという。確かに、食べられたら遺伝子を残すことができない。食べ物をうまくとる方向への進化より、食べられないようにする方向への進化の方が切実性がある。社会性やコミュニケーションの能力も、捕食者から逃れるためと考えた方が納得がいく。

 なお、ジャガーは南北アメリカ大陸に分布するので、先のルソーの絵は人類進化の舞台アフリカではなく、南米のジャングルを描いたということになる。そういえばルソーの「眠れるジプシー女」にも、砂漠で横たわる女性の横に忍び寄るライオンが描かれている。ルソーの意識の中には「狩られる人」の遠い記憶があったのだろうか。
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by greenerworld | 2009-01-08 08:00 | レビュー  

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