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[BOOK]長い旅の途上 星野道夫著

f0030644_13541716.jpg 星野道夫の写真は雑誌や新聞などで何度も目にしていて、その写真に添えられた文章も当時読んでいるはずなのだが、まとまったものを読むのは初めてだった。読んでみてあらためて、この稀代の写真家が同時に非凡な文筆家でもあったことに気がついた。今さらながらその才能を惜しまずにはいられない。

 この人の目には、自然も文化も人の生き方も同じように見えていたのだろう。今自分が生きているこの地球の上に、カリブーやホッキョクグマやザトウクジラや伝統を忘れずに暮らす人たちが生きている、その同時性に対する畏敬の念が、彼を突き動かしていたのではないか。「いつも、いつも、遅く生まれすぎたと思っていた」彼が、カリブーの大群を見て、「何か間に合ったような気がした」と書く。それは自分自身がその場に居合わせることのできた幸せを表現したのではなく、それをこうして伝えることのできた喜びの言葉だ。

 懐かしく思い出すと書いた「過去も未来もない、ただ一瞬一瞬を生きていた」幼いころの時間の感覚を、おそらく星野はずっと保ち続けていたにちがいない。彼はすぐにでも過去に流れ去ろうとするその一瞬一瞬を記録することに全身全霊をかけた。星野の写真にも文章にも、その一瞬に生きていたものたちへのいとおしさがこぼれ落ちんばかりに満ちている。

 野生生物とオーロラと星野道夫のことを覚えている人々に会いに、アラスカに行ってみたい。まだ間に合ううちに。

 『長い旅の途上』
 星野道夫著 文春文庫 724円+税

 星野道夫の主要な写真作品は富士フイルムミュージアムで見ることができる。
http://www.fujifilmmuseum.com/pro_artist/artist/list/?id=2
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by greenerworld | 2009-06-23 13:58 | レビュー  

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