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電子ブックと出版産業

 今週いよいよ日本でも、iPadが発売になる。すでに店頭予約は早々と打ち切られるほどの人気。アメリカでは発売1か月を待たずに100万台が売れた。これはiPhoneより速いペースで、この新しいデバイスが多くの人から待ち望まれていたことがわかる。

 iPadの機能の一つに「電子ブックリーダー」があり、サイトからダウンロードした電子ブックを読むことができる。紙の本がなくなることは当面ないだろうが、たとえば、iPadの普及が1,000万台を超えたとき──それはさほど遠くないことだと思うが──状況は大きく変わるのではないだろうか。

 iPadの無線LAN対応タイプで最も安いのは48,800円。しかし電子ブックは半額から3分の1の価格で売られるだろう。1冊あたり平均で700~800円安ければ、60~70冊買えば元が取れる計算だ。おまけに本棚をふさぐことはない。一部の豪華本などを除いて、電子ブックをダウンロードして購入する方向にシフトしていくことは避けられない。音楽の世界でこの9年間に起こったことが、書籍の世界でも起こるにちがいない。

 それを加速させそうなのが、出版産業の現状だ。いまに始まったことではないが、本はますます売れなくなっている。ところが出版点数は増えている。書店店頭での回転が速くなり、出版社は書棚を確保するためにも、資金繰りのためにも、点数を増やし、その代わり1点あたりの部数を絞っている。自転車操業は以前からのこの業界の体質だが、それがますますひどくなっている。じっくりと時間をかけた企画など無理で、お手軽な新書本ばかりが増える。新書が悪いと言っているわけではないが、コンテンツを供給する立場からするとゆゆしき時代になっている。

 印税率も下がっているから、価格低下、部数減とトリプルで、著者に入る印税収入は縮小している。印税収入が減れば、著者は物を書くことで食べていけなくなる。一般的に印税率は10%とされているが、最近は7%とか、もっと低い場合もある。1000円の本で、70円程度。1万部──最近ではちょっとしたスマッシュヒットだ──売れても70万円。1冊の本を書き上げるのに、最低でも数か月はかかる。取材費や資料費も自前だから、全く割に合わないことになる。若い才能がこの世界に入ってくることを躊躇するようになろう。誰もが最初から村上春樹になれるわけではないし、村上春樹を生むには、その裾野が広くなければならない。本が文化のバロメータだというなら、その文化はどんどん劣化していく。出版界は自分で自分の首を絞めているように思う。

 ところがアメリカでは電子ブックサイトが著者に払う印税が85%、90%だという。300円で売られても250円以上が収入になる。どちらが魅力的か、計算するまでもない。

 もちろん良い本にするには編集機能が必要だが、少なくとも出版社は必要ない時代がすぐそこまで来ているような気がする。いや、誰でも出版社になれる時代か。
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by greenerworld | 2010-05-25 17:46 | 森羅万象  

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