管理者へのメール / 管理者のプロフィール


ナラ枯れの被害

f0030644_2005256.jpg
 先月下旬に滋賀県を訪問したとき、山々のところどころに葉が茶色くなった木が目についた。まだ紅葉には早い。これがナラ枯れらしい。マツ枯れに次いで深刻になりつつある樹木の「感染症」だ。

 ナラ枯れという言葉を初めて聞いたのは、5年くらい前、山形県小国町で。この地域ではナラといえば、冷涼な気候に適したミズナラで、その林のところどころが枯れ始めているという。調べてみると、カシノナガキクイムシ(略してカシナガ)という穿孔性の甲虫の一種が原因で、当時京都北部や福井、滋賀、岐阜あたりで被害が広がっていた。それが、日本海沿いに北上して、とうとう山形県にまで達したのだった。

 マツ枯れの原因はマツノマダラカミキリ(松食い虫)が媒介するマツノザイセンチュウで、これは戦前に外洋材にくっついて日本に入ってきた。それが高度成長期以降に平地のマツから、山地へ、北部へと広がっている。

 カシナガの方は、カビの一種をコナラ、ミズナラなど宿主となる木に感染させる。幼虫はこのカビを食べて育つという共生関係にある。穴を開けられ、カビに感染した木は水を吸い上げられなくなって枯れてしまう。

 ナラ枯れというものの、原因昆虫にカシという名のつくとおり、アラカシやアカガシなどの常緑性のコナラ属(quercus)やシイ類にも感染する。以前は、発生が南日本中心で、むしろ「カシ枯れ」だったし、発生は単発的だったという。一方で最近の“流行”では、ブナにも被害が広がっている。カシナガの起源はよくわかっていないが、台湾や東南アジアにも分布しているようだ。穿孔性昆虫は流木に潜んだまま運ばれることがあるので、海流にのってやってきた可能性は否定できない。ミズナラやブナのような冷温帯の木に感染するようになったのは、昨今の温暖化も関係があるのだろうか。

 また、カシナガは大径木に感染することが多いのも特徴で、その意味では森林を更新させる役割があるとも言える。しかし、一方でブナやミズナラ、コナラなどの実は、クマやイノシシ、野鳥など野生生物の大切な食料でもある。ナラ枯れの蔓延で山に木の実がなくなれば、クマが人里に出没するということにもなりかねない。

 薪炭林として使っていた広葉樹林(いわゆる里山)が放置され、木々が大木化したところに、広がったと考える研究者もいる。薪炭林では、コナラやクヌギを中心とした落葉広葉樹を15~25年程度で切り倒し、ひこばえ(萌芽)を育てて更新していた。マツ枯れにも言えることだが、人間の干渉がなくなったことで、自然のバランスが崩れたのだとしたら、かつてのように林を利用するようになれば、被害は減っていくのだろうか。

 ナラ枯れがここ10年に満たない短期間に爆発的な広がりを見せている原因は、明らかではない。カシナガには寄生バチなどの天敵もいるはずだが、それが被害地域には追いついてきていないのかもしれない。何かがきっかけで、複雑なドミノ倒しのような連続崩壊が起こることは自然界では往々にしてある。ナラ枯れがより大きな崩壊の前触れでないことを祈る。
[PR]

by greenerworld | 2010-10-04 20:08 | 生物多様性  

<< 尊大な中国と日本のこれから メダカの遺伝子鑑定体験 >>