水素社会が実現しない4つの理由
2010年 12月 14日
1)水素ガス資源は地球上に存在せず、水素は何らかの化合物からエネルギーを使って取り出さなければならない二次エネルギーである。つまり電気と同じ。それを燃料電池で電気に変えるのは、二次エネルギーである水素を使って、二次エネルギー(この場合は三次エネルギー?)である電気をつくるという工程の多いむだなことをするわけだ。水素を化石燃料(炭化水素)から取り出せば化石燃料単体で使うよりも総合効率はむしろ低いし、CO2も発生する。資源の限界からも逃れられないので、この方式は解決にならない。
2)では太陽光や風力のような再生エネルギーを使って、電気分解で水から水素を取り出すという方法はどうだろうか。電気分解に電力を使い、それで得られた水素を使って燃料電池で電気をつくる。つまり、再生可能エネルギー→電気→水素→電気という変換になる。電気から水素で7割程度、水素から電気で理想的な5割の効率だとして、総合効率は35%。3分の2が失われる。実際に屋久島で行われた実証実験では、総合効率が22%だった(「
3)水素の体積エネルギー密度はガソリンの3000分の1。逆に言えばガソリンタンク並の容器に搭載するには、3000分の1に圧縮(あるいは液化)しなければならない。そのためには極低温と超高圧を必要とし、大きなエネルギーを使うことになる。ここでまた相当のエネルギーロスが生じる。
4)水素は宇宙でもっとも軽くて小さい物質で、極微少な空隙であっても通り抜けてしまう。もし天然ガスやガソリンのようにパイプラインを使ったら、大量の水素が大気中に漏れ出るだろう。それどころか水素は大気圏を突き抜けて宇宙空間に拡散してしまう。
このように「水素社会」のかかえる問題は子どもでもわかるシンプルな問題ばかりだが、国や大企業はなぜ固執するのか。その答えとなりそうなのが、一つはオフピーク時の余剰電力のストックとして水素に変換しようという考え。これはしかし蓄エネルギーとしては効率が悪すぎて、コストから考えても見込みはなさそう。もう一つが「原子力水素」というキーワードだ。原子力発電による電気で水を分解するのでは先に見たように非効率。ところが高温ガス炉(900℃以上)の熱を利用した高温熱化学分解という技術を使えば、エネルギー変換効率の上限はカルノー効率となるため、理論上は60%以上の変換効率が期待できる。
それなのに水素利用に突き進むのは、原子力の平和利用の初期の頃、夢のエネルギーと礼賛されたことを想起させるものがある。
追記:2015年8月4日に『「水素社会」はなぜ問題か』を上梓いたしました。ここで触れた水素社会、水素エネルギーの問題点をわかりやすく解説しています。ぜひお読みください。
(2015年8月4日記)
http://www.iwanami.co.jp/book/b254468.html
by greenerworld | 2010-12-14 13:30 | エネルギー