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水素社会が実現しない4つの理由

 電気自動車にスポットライトが当たる一方で、一時あれだけもてはやされた燃料電池自動車の影が薄くなった。10年前に発表された経産省の「燃料電池戦略研究会」の報告では、2010年には5万台の燃料電池車が走っていることになっていた。もちろん、現在市販されている燃料電池車はない。燃料電池で走る車というコンセプト自体が虚構だと考えているブログ子としては、この分野に莫大な予算を注ぎ込むことに反対であり、それこそ仕分けを必要とすると思っているが、ここへ来てまた新たな水素利用実証事業のニュースが報じられた。燃料電池の技術的課題解決以前に、きわめて引火しやすいという点を別にして水素を燃料に使うことには根本的な問題がある。このことは3年以上前にも書いた(http://greenerw.exblog.jp/6553878)が、あらためて「なぜ水素社会は実現しないのか」、理由をまとめておきたい。

 1)水素ガス資源は地球上に存在せず、水素は何らかの化合物からエネルギーを使って取り出さなければならない二次エネルギーである。つまり電気と同じ。それを燃料電池で電気に変えるのは、二次エネルギーである水素を使って、二次エネルギー(この場合は三次エネルギー?)である電気をつくるという工程の多いむだなことをするわけだ。水素を化石燃料(炭化水素)から取り出せば化石燃料単体で使うよりも総合効率はむしろ低いし、CO2も発生する。資源の限界からも逃れられないので、この方式は解決にならない。

 2)では太陽光や風力のような再生エネルギーを使って、電気分解で水から水素を取り出すという方法はどうだろうか。電気分解に電力を使い、それで得られた水素を使って燃料電池で電気をつくる。つまり、再生可能エネルギー→電気→水素→電気という変換になる。電気から水素で7割程度、水素から電気で理想的な5割の効率だとして、総合効率は35%。3分の2が失われる。実際に屋久島で行われた実証実験では、総合効率が22%だった(「屋久島水素ステーションプロジェクト活動報告」2006年3月→リンク切れ)。そのまま電気をバッテリーに貯めて使った方がいいことは誰の目にも明らか。

 3)水素の体積エネルギー密度はガソリンの3000分の1。逆に言えばガソリンタンク並の容器に搭載するには、3000分の1に圧縮(あるいは液化)しなければならない。そのためには極低温と超高圧を必要とし、大きなエネルギーを使うことになる。ここでまた相当のエネルギーロスが生じる。

 4)水素は宇宙でもっとも軽くて小さい物質で、極微少な空隙であっても通り抜けてしまう。もし天然ガスやガソリンのようにパイプラインを使ったら、大量の水素が大気中に漏れ出るだろう。それどころか水素は大気圏を突き抜けて宇宙空間に拡散してしまう。

 このように「水素社会」のかかえる問題は子どもでもわかるシンプルな問題ばかりだが、国や大企業はなぜ固執するのか。その答えとなりそうなのが、一つはオフピーク時の余剰電力のストックとして水素に変換しようという考え。これはしかし蓄エネルギーとしては効率が悪すぎて、コストから考えても見込みはなさそう。もう一つが「原子力水素」というキーワードだ。原子力発電による電気で水を分解するのでは先に見たように非効率。ところが高温ガス炉(900℃以上)の熱を利用した高温熱化学分解という技術を使えば、エネルギー変換効率の上限はカルノー効率となるため、理論上は60%以上の変換効率が期待できる。

 f0030644_20141489.jpgつまり水素社会=原子力社会という構図で、どうもこのあたりがドライビングフォースになっているような気がする。しかし原子力水素製造には技術的に解決すべき課題が山積しているし、もし実現したとしても使用済み核燃料の問題は残る。

 それなのに水素利用に突き進むのは、原子力の平和利用の初期の頃、夢のエネルギーと礼賛されたことを想起させるものがある。

 追記:2015年8月4日に『「水素社会」はなぜ問題か』を上梓いたしました。ここで触れた水素社会、水素エネルギーの問題点をわかりやすく解説しています。ぜひお読みください。
 (2015年8月4日記)

 http://www.iwanami.co.jp/book/b254468.html

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by greenerworld | 2010-12-14 13:30 | エネルギー  

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