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クニマスにとって幸か不幸か?

 かつて秋田県の田沢湖に生息していて、絶滅して(正確には“絶滅させて”)しまったクニマスが富士五湖の一つ西湖で70年ぶりに発見されたことが話題になっている。サケ科の魚類には海に下って成長する降海型と、一生を淡水で過ごす陸封型があるが、クニマスはベニザケの陸封型で、同じベニザケの陸封型であるヒメマスとは亜種関係にある(つまりクニマスはベニザケの亜種)。生息が知られていたのは田沢湖だけで、1940年に玉川から強酸性の水が導入されたことにより他の魚種とともに絶滅してしまった。今回発見されたのはかつて西湖に放流された受精卵から発生し生き残っていたもののようだ。西湖にはヒメマスも放流されていたが、交雑することなく代を重ねていた。産卵時期や生息域が異なることが交雑しなかった理由と見られており、この2亜種はかなり分化が進んだ状態にあると言えるのではないか。

 絶滅種・絶滅危惧種を記載したレッドリストは当然見直しされることになるが、どのカテゴリーに位置づけられるのか。環境省のレッドリストカテゴリーの定義では、野生絶滅を「過去に我が国に生息したことが確認されており、 飼育・栽培下では存続しているが、我が国にお いて野生ではすでに絶滅したと考えられる種」としている。この定義に従うと、西湖では野生状態で繁殖しているので、野生絶滅ではなくその下の絶滅危惧のようにも思える。そこで、レッドリストの元になっているIUCN(国際自然保護連合)の基準を調べると、野生絶滅は「栽培・飼育下または過去の生息範囲の外での移植個体群でしか生き残っていない場合」としている(2001 IUCN Red List Categories and Criteria version 3.1)。こちらに従えば「野生絶滅」ということになる。絶滅したはずのトキを中国から譲り受けた個体群が飼育下あるからと、野生絶滅に位置づけている環境省はどういう判定を下すのか。いずれにしても西湖では「外来種」であり自然分布ではない。クニマスを原産地から絶滅させてしまったという事実を帳消しにするような美談ではなかろう。

 早速、原産地の田沢湖にクニマスを戻そうとする動きも出てきた。これも地域振興に絡めて。トキやコウノトリでの地域活性化にあやかろうとするものだろう。またこの話題がひとしきりメディアを賑わし、クニマス詣でも増えることだろう。絶滅種が遠く離れた場所とは言え生き残っていて再発見されたのは喜ばしいことだというべきだろうが、クニマスにとっては、そのまま誰にも知られずに西湖でひっそりと生きていた方が、幸せだったかもしれないなと、思ってしまう。ほっといてくれればよかったのにと、さかなクンを恨んでいるかもしれません。
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by greenerworld | 2010-12-22 10:19 | 生物多様性  

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