管理者へのメール / 管理者のプロフィール


100mSv以下の健康影響、リスクがないのではなく「わからない」

 子どもたちを大人と同じ基準の年間20mSv(ミリシーベルト)の環境で過ごさせても大丈夫なのか──多くの人が強い懸念を抱いている。福島県内では原発周辺のみならず、中通と呼ばれる郡山市や福島市でも、平常時をはるかに上回る空間線量率が続いている。一方で避難地域の基準は、積算被曝量で年間20mSvを超える地域とされた。逆に言えばそれ以下であれば「安全」だという論だ。学校での基準も、年間20mSvに相当する毎時3.8マイクロSv以下なら安全だとする。放射線の影響が大きいと言われる子どもたちに、大人と同じ基準を当てはめることに、親御さんたちの不安が高まっているのは当然だ。

 国立がん研究センターは、福島県在住の人を対象に2万人分の個人線量測定バッジを用意し、3か月に1度回収して外部被曝の積算量を測定することを国に提案したという(4月14日)。報じた日経新聞電子版記事によれば、同センターの嘉山孝正理事長は「1回の被曝量が100mSv以下なら、癌などの発生率上昇の可能性は高くならないとされる」としたうえで「個人の被曝状況を正確に把握できれば、被災者が少しでも安心した生活ができるのでは」と語ったという。

 これには違和感を禁じ得ない。バッジ型で、検査機関に送らなければ被曝量がわからないような線量計を着けて安心するのだろうか? むしろ不安が増すのではあるまいか。そもそも放射線業務従事者のような生活を日常的に強いること自体が、異常だとは感じないのだろうか。

 福島県の放射線健康リスク管理アドバーザーである山下俊一長崎大学教授は、県内などの講演で語っている。「年間100mSv以下は明らかな発がんリスクが起こらない」しかしこう続けているのだ。「わからないんですね」(5月3日の二本松市での講演より)。彼も、100mSv以下でも確率的影響のあることは認めている。しかしそこに科学的に証明できるようなデータはないと言いたいのだろう。それならばリスクがないという言い方ではなく、わかっていないことをふくめてリスクを最小限に抑えるように伝えることが医師でもある彼の第一義的な務めではないだろうか。

 山下氏は1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原発周辺地域にも何度も入り、調査や医療支援に当たってきたそうである。彼の主張では、チェルノブイリ事故後有意な増加が見られたのはヨウ素131の内部被曝を主因とする小児甲状腺癌だけで、土壌などに沈着した放射性セシウムの影響はほとんどないということだ(4月5日、日本財団緊急シンポジウムでの講演;記事「放射性セシウム汚染で疾患は増えない」)。

 しかし、チェルノブイリ原発事故後に高濃度に土壌中にセシウムが沈着したスウェーデンで、M.トンデルらは、110万人以上を対象に1988年から99年にかけて癌の発症率を調査し、セシウム137の濃度に応じて発症率が高まっていることを示した。年間10mSv以下に相当する地域でもこうした傾向は見られた(美浜の会「チェルノブイリ原発事故後のセシウム汚染地帯でがんの過剰発生が確認されている」)。こうしたデータについては彼らは全く触れない。

 郡山市では4月27日、独自に市内の薫小学校の校庭の土を除去したところ、空間線量率が除去前の毎時3.3マイクロSvから毎時0.5マイクロSvへとかなり低下した。ところが、文部科学大臣や官房長官は汚染土除去の必要はないと言っている。その後、汚染土は埋立もできず校庭の一角に積み上げられたままだ。その除去した校庭汚染土を枝野官房長官は「放射性廃棄物だ」と言った(5月1日)。それなら、福島県の子どもたちは放射性廃棄物相当の土の上で運動したり遊んだりすることになる。

 汚染土除去が必要ないとする文部科学大臣や官房長官は、年間20mSvが安全だと言っているに等しいが、そもそも年間積算線量20mSvというのは、これを提案しているICRP(核エネルギーを推進する立場の組織)でも、原発事故収束後の復旧時のもので、速やかに平常時の年間1mSvに戻すことが前提となっている。であれば、線量を下げるために建物や道路の洗浄、汚染土の除去などの除染を徹底的に行うべきであろう(もちろん東電の負担で)。さらにICRP基準は外部被曝(環境にある放射性物質からの被曝)のみで、放射性物質を体内に取り込んだ場合の内部被曝は考慮されていない。年間被曝量を考えるなら当然内部被曝を考えるべきだろう。子どもたちは校庭や公園で泥だらけになって遊ぶのだから。山下教授の考えによればそうした場合に傷口や口から取り込まれる放射性セシウムは全く考慮する必要はないということらしい。

 山下教授らは医師ではあるが、本質は研究者なのだろう。放射線の影響を研究する研究者にとって、数十万人規模で疫学データが得られる機会はめったに訪れない。線量計も持たせて個人被曝量が把握できればより詳細なデータを取ることができる──まさか、そんなことを考えているとは思わないが、「100mSv以下は明らかな発がんリスクは起こらない。わからないんですね」に続いて、こんな言葉を飲みこんでいるのかもしれないとつい想像してしまうのだ。

 「それはこれから先皆さんのデータを時間をかけて追跡していく中でわかってくると思います。だから“安心して”ここに居続けてください」
[PR]

by greenerworld | 2011-05-05 16:00 | 3.11後の世界  

<< 児童を守る橘小学校の気概 飯舘村等の計画的避難区域の設定... >>