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『れくいえむ』(郷静子著)

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 この作品を初めて読んだのはちょうど40年前の夏。作者の郷静子さんは、その前年に本作で芥川賞を受賞、夏休みに入る前に担任の国語教師から単行本を渡され、県のコンクールに出すから読んで感想文を書くように言われた。夏休みからは受験勉強のつもりだったから、気が進まずにいたが、読み始めると、そのまま一気に読んでしまった。

 太平洋戦争末期、横浜にある仏教系の私立高等女学校に通う節子は一途な軍国少女である。節子の兄は、東京理専を中退して海軍予備学生として、特攻隊に配属される。

 節子は学内で起こったふとした事件から、2歳年下のなおみと知り合う。なおみの父はアメリカへの留学経験もあるリベラルな大学教授で、論文を軍批判と咎められて獄につながれている。節子を慕うなおみは、自分自身も頑張って軍国少女になろうと決意するが、父親のことで謂われなきいじめや不当な扱いを受け続ける。

 節子の回想と、節子となおみの交換ノートによってストーリーは展開する。戦局はいよいよ緊迫し、節子ら高女3年生(14歳〜15歳)も、工場に動員される。

 最初から最後まで、おびただしい死が描かれる。淡々と。死は日常茶飯事なのであった。節子は戦争と病気という二つの死に取り憑かれる。空襲はいよいよ激しくなり、節子はなおみを失い、ひそかに慕う人を失い、家を焼かれ、父や母を失う。かつて日本軍が中国を空爆した場面をニュース映画で観て万歳を叫んだことを節子は思い出し、その下に多くの命と日常があったことに思い至るのだ。それでも節子は工場に通うことをやめない。不治の病であった結核に冒されながらも、ただただひたむきに日本の勝利を信じ、疑わなかった。そして敗戦の日を迎える。それとともに彼女の信じてきたものは全て跡かたもなく消え失せた。

 集団的自衛権についての憲法解釈見直しなど、現政権の「軍国化」路線が気になり、読み返してみたくなったのだが、単行本はおろか文庫も絶版で、古本を取り寄せるしかなかった。かなり傷んだページを繰り始めると、あの夏と同様、一気に読み終えた。あらためて、若い人に読んでほしいと思った。絶版なのは残念でならない。
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by greenerworld | 2014-08-15 11:23 | レビュー  

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