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[Book]『藻類30億年の自然史』─地球史を藻類を中心に扱った労作

f0030644_10173148.jpg 夏はベーシックな本を読みたいと思って、いつか読もうと買ったままにして置いた本を何冊か並行して読んでいる。その中の一冊『藻類30億年の自然史 藻類からみる生物進化』(井上勲著、東海大学出版会、2006)は、厚さと重さ(笑)、扱う時間スケール、参考文献の数等々、文字通り労作である。いや、もちろん内容も面白いし、専門書らしからぬ読みやすさでもある。

 地球はさまざまな生命の暮らす星である。その地球を生命の星たらしめた最大の立役者が、ちっぽけな、あるいは目立たぬ(中にはジャイアントケルプのような大いに目立つ海藻もあるが)藻類だった。



 原始地球の二酸化炭素濃度を低下させ、酸素を放出して海水中の鉄イオンを沈殿させて鉄鉱床を築き、さらには大気中の酸素濃度を高めてオゾン層をつくったらん藻(あるいはシアノバクテリア)。石灰質の殻をもつハプト藻類やサンゴ虫と共生する渦鞭毛藻は白亜や大理石、石灰岩の元となり、二酸化炭素の固定に寄与してきた。現在のような生命の多様性の基礎となったカンブリア・ビッグバンをもたらしたとされる全球凍結(スノーボールアース)も、それ以前に藻類の活動が活発になり、二酸化炭素濃度が低下した結果、温室効果が低下したことがきっかけになっているようだ。もちろんオゾン層の形成は有害な紫外線を遮断して、生物の陸上への進出を助けただろう。

 中生代には浅く暖かい海(テーチス海)で藻類が繁栄し、沈降して地殻に閉じこめられ、やがて石油や天然ガスに変わった。現在の主要な油田地帯はこのテーチス海の浅瀬に当たる。

 思いがけない作用もある。藻類のつくり出す硫化ジメチル(磯臭さの原因物質)が、大気中で分解され亜硫酸ガス(SO2)を経て硫酸イオンとなる。これが水に溶け凝結核となって、雲をつくる。その雲がアルベド(太陽光の反射作用)を高め、地球の温度上昇を防いでいるという。もしこの作用がなければ、地球の気温は10℃も高くなっているだろうというのだ。

 ほかにもある。海洋の植物プランクトン(単細胞藻類)や海藻は陸上植物に匹敵する二酸化炭素固定を行い、その10分の1は死骸や排泄物として深海に運ばれ、貯蔵される。それは炭酸イオンや重炭酸イオンを底層水に溶かし込み、2000年サイクルといわれる海洋ベルトコンベアに乗ってまた再び表層に運ばれる。雄大なカーボンサイクルをつくりだしているのだ。

 地球には、(たぶん)偶然生命が生まれ、長い時間をかけて海にそして地に満ちた。生命作用によって地球環境はつくりかえられ、私たちもそのおかげでこの地球で暮らしている。そのことを謙虚に認めたい。気候変動や環境問題を考える時、けっして忘れてはならない視点だと思う。

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by greenerworld | 2006-08-18 10:19 | レビュー  

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