人気ブログランキング | 話題のタグを見る

管理者へのメール / 管理者のプロフィール


カエルツボカビ症・続報

 (1/17 記事末に参考サイトを掲載しました)
 古い新聞のクリップファイルを繰ってみたら、1998年にオーストラリアとアメリカの研究チームが、カエルの減少が続いていた中米パナマやオーストラリアの死んだカエルから、ツボカビの一種を検出、原因と突きとめたという記事が出てきた(1998.7.7付朝日新聞夕刊)。ツボカビの英語名 chytrid fungusでググってみると、89,800件がヒット。日本語のページだけに絞るとたった25件。つまり世界的には非常に大きな問題になっているのに、日本では(私も含めて)問題意識がなかったということだろうか。このツボカビ症の原因菌Batrachochytrium dendrobatidisで検索しても日本語の論文がヒットしないので、少なくとも国内ではあまり研究が行われてこなかったようだ。ちなみに「ツボカビ」で検索すると161,000件もヒットするが、ほとんどはここ数日のもので新聞報道の紹介。反響の大きさはうかがい知れるが、「後の祭り」にならないことを祈る。

 ペット用に野生生物を大量に輸入している日本にツボカビ症が侵入するのは必然と思われるが、行政は危機意識が薄くほとんど対策が取られてこなかった。すでに侵入してしまった以上、拡大を防ぐことに全力をあげるしかない。カエルの輸入をストップさせる、すでに持ち込まれ、業者や研究室、個人に飼われているカエルの移動を禁止し、野外への放流はもちろん、死んだカエルの投棄(庭に埋めるのも不可)、感染したカエルの水槽の水を下水に放流することも防がなければならない。だが、果たしてそんなことができるだろうか。



 ネット上の文献を斜め読みすると、Batrachochytrium dendrobatidisは南アフリカ起源であることが疑われている。もともと南アフリカのある地域に土着の菌で、両生類に寄生はするが、その致死性は低かった。つまりこの地域の両生類は進化の過程で抵抗性を身につけてきたわけだ。それが、カエルの人為的移動に伴い世界に広がったとされる。キャリアとして疑わしいのはアフリカツメガエルである。ペットとしても飼われるが、むしろ研究・実験動物として世界中で大量に飼われているカエルだ。飼育しやすく繁殖も容易で、日本でも養殖している業者がある。実験動物としてニーズがあるからだ。

(注:過去にアフリカツメガエルによって菌が広がった可能性があるということで、現在国内にいる、あるいは輸入されるアフリカツメガエルがツボカビ症に感染しているというわけではない。他のカエル・両生類も同様なので、現在飼育されている方は、けっしてパニックになる必要はない。逆に現在では輸入されたものはどの種類のカエルであっても感染しているおそれがある。)

 ケープタウンの博物館にあった、1938年に南アフリカで採集されたアフリカツメガエルの標本から、ツボカビ症への感染が確認されたという。南アフリカ全体に広がったのが、70年代前半だ。1961年にはカナダのケベックでアフリカ以外の最初の野外感染が確認されている。以後、中央アメリカには1983年、南アメリカには1986年に侵入したとされる。オーストラリアでは、1993年に初めてこの病気で死んだ野生のカエルが発見されたが、1978年には侵入していたと考えられている。さらにヨーロッパへの侵入は1997年、イギリスで野生のカエルから感染個体が発見されたのが2005年である。こうした海外の状況を見ると、日本が水際で防げなかったことが実に悔やまれる。鳥インフルエンザであれば、人体に影響ないとされる肉や卵まで感染地域からの輸入を禁止するのに。

 新しい感染症に抵抗性を持たないカエルはひとたまりもない。そしていったんツボカビ症が野外に広がってしてしまうと、感染拡大を防ぐことは難しい。このツボカビは水を媒介として広がるからだ。カエルは水辺から水辺へかなりの距離を移動する。感染したカエルが死ぬまでの時間に、新しい水場へ移動して、そこを汚染する。河川に入れば下流域も汚染される。ふだんは水辺から離れて暮らすカエルも、繁殖期には水辺に集まる。こうして中米パナマでは、カエルの個体数が10分の1になってしまったという。熱帯地域での感染爆発には、地球温暖化による気候変動の間接的な関与があるという研究もある。

 オタマジャクシやカエルは、幼い頃誰もがとったり飼ったりした覚えがあるだろう。このままではそれさえも規制しなければならない。

 「子どもたちがふれあえる生きものがまた一つ減ってしまうということですね」

 この話をしたらカメラマンのSさんが嘆いた。自然の中で生き生きと遊ぶ子どもたちを撮影し続けている人である。

 もちろん問題はそれだけにとどまらないのだが。

文献:
Ché Weldon et al. : Origin of the Amphibian Chytrid Fungus, Centers for Disease Control and Prevention (USA)
http://www.cdc.gov/ncidod/EID/vol10no12/03-0804.htm

Department of the Environment and Heritage (Australia) : Chytridiomycosis
http://www.deh.gov.au/biodiversity/invasive/publications/c-disease/index.html

BBC News : Lethal amphibian fungus 'in UK'
http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/4249136.stm

by greenerworld | 2007-01-14 11:51 | 生物多様性  

<< あのテッド・ターナー氏が太陽電... 【緊急】カエルを絶滅させるツボ... >>