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[Book]『水田生態工学入門』

f0030644_8165531.jpg 『水田生態工学入門』
 水谷正一編著
 農文協刊 2,900円(税込)

 第一章 水田水域の環境修復の課題
 第二章 水路と水田の生態系
 第三章 環境修復のハード技術
 第四章 環境修復のソフト技術
 第五章 事例に学ぶ環境保全工法

 水稲の生産効率を高めるために行われてきたいわゆる圃場整備事業は、一方で水田のまわりに暮らしていた多くの生物を激減させてしまった。かつての水田とその周辺に張り巡らされた用水路は、湿地を好む植物、魚、両生類、昆虫などに格好の生息環境を提供してきた。また、水田はふだんは陸上生活するカエルや河川本流に住むナマズやコイ、フナなどの産卵場所でもあった。それらを餌とするより高次の捕食者が集まり、豊かな水田生態系を形成していた。しかし、乾田化、水路の三面張りや暗渠化などによって、多くの生き物は水田周辺に暮らしていけなくなってしまったのだ。



 この本は、「メダカ里親の会」会長としても活動する宇都宮大学の水谷正一教授が中心となって、圃場整備事業によって失われた水田の生態的な機能や生物多様性の回復に取り組んだ成果をまとめたものだ。主に栃木県内の事例を中心に、さまざまな調査研究や取り組みが紹介されている。

 たとえば、コンクリート用水路に落ちたカエルが、はい上がれずに流されてしまう問題を解決するために、脱出のためのスロープ工を設けることが一部で行われているが、実際にはこれがほとんど役に立たないことを実験で明らかにしている(第3章6、林・高橋)。ではどうしたらいいのか。カエルが落ちないように水路にふたをするというやり方が最も簡単で効果が高いという。ドジョウなどの淡水魚を水田に遡上させるために、水路そのものを工夫することも、もちろんだが、すでにある三面張り水路に設置する仮設式の魚道も提案されており、水谷研やメダカ里親の会によってその効果の検証が続いている(3章4、鈴木)。

 また、こうした取り組みには地元農家の理解と参加が欠かせない。そのためのソフト手法も事例を交えて紹介されている(4章、水谷・広田)。いずれも丁寧な実践と調査に基づいた提言である。

 最近里山や水田の培ってきた役割が再評価されているが、それは「美しい国」に代表されるような先祖伝来のふるさとの生きものや景観を大切にしようという思いが中心になっている。しかし、生態系・生物多様性の回復は、私たち自身の生存のために必要なことだ。生態系はエネルギーの受け渡し、物質循環を通じて、私たちの生存を支えている。それを破壊しても生産が成り立つのは、化石エネルギーのおかげだ。化石エネルギーがなくなったときに、健全な生態系がなければ、私たちの生存は不可能である。
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by greenerworld | 2007-06-28 08:32 | レビュー  

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