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日本の米、コシヒカリ系が81%!

 実家は米も作っている兼業農家だったが、子どものころ新米は11月にならないと食べられなかった。稲刈りは10月に入ってからで、刈った稲をしばらく田んぼの稲架(はさ)に架けて干してから、田んぼか家に運んで脱穀。それをまたむしろに広げて天日乾燥させようやく籾摺(もみす)りをする。日が短くなり朝晩きゅっと冷え込む頃になって、玄米を農協に納めたものだった。この時期は一家総出で、時には親戚も手伝いに来て、早朝から夜まで働きづめ。やっととれた新米のうまさは格別に感じたものだ。たしか日本晴という品種がメインだったと思うが、作業が重ならないよう、収穫時期がずれる何種類かの品種をつくっていたと思う。

 近年の一番人気品種コシヒカリだと4月に田植えをし、早ければ旧盆過ぎに稲刈りとなる。いまは稲刈りしながら脱穀してくれるコンバインを使い、収穫したらそのまま袋詰めでライスセンターに持っていくだけ。ライスセンターで人工乾燥し、籾摺りして出荷。あっけないほど農家の負担は減った。いま日本でつくられている米は4割近くがコシヒカリ。8月の終わりから9月が新米の季節になった。

 実のところ、作付面積の37.1%を占めトップのコシヒカリ始め、いま日本でつくられる米のほとんどがコシヒカリ系統になっている。2位のひとめぼれ、3位のヒノヒカリ、4位のあきたこまちは片親がコシヒカリ、5位のキヌヒカリ、北海道で多くつくられている6位のきらら397もコシヒカリ系。平成18(2006)年度の統計では、実に作付面積上位11位まで、割合にすると80.9%が、コシヒカリおよびコシヒカリ系で占められているのだ。

 かつて農家が品種をつくり分けていたのは、冷害や台風、病虫害への備えでもあった。生育期間や収穫時期が重なる単一品種栽培では、被害が出れば全滅ということにもなりかねない。多品種栽培はそのための保険でもあったはずだ。いまはライスセンターに持っていけばみんな一緒くたになってしまうから、一つの地域でコシヒカリならコシヒカリだけという栽培方法がふつうになった。しかも九州から北海道まで、コシヒカリの遺伝子を継いだ兄弟たちばかりが栽培され、形質に変異が少なくなっている。何かあったら、と心配になる。

 いまから160年ほど前、アイルランドでジャガイモの胴枯病が大発生し、大飢饉(Great Famine またはIrish Potato Famine)が起こった。このじゃがいも飢饉で当時のアイルランド人口の約1割が餓死したという。同時に多くの農民が故郷を捨て新大陸に渡ることを余儀なくされた。ジャガイモは芋(地下茎)を植え付けて殖やす。つまり同じ品種はほぼ同じ遺伝子を持っているクローンだ。そのころアイルランドではやせた土地でも育つランパーと呼ばれる品種が普及し、全土で栽培されるようになった。国民の主食が遺伝的に均一な単一作物に依存するようになってしまったわけだ。イングランドから侵入したと言われる胴枯病菌への耐性も均一だった。病気は瞬く間にアイルランド全土に広がり、数年にわたってジャガイモの収穫が激減した。

 現代の日本でそんなことが起こるわけがないとも思う。しかし、食糧自給率40%を割り込んではいても主食の米だけはなんとか自給という状況も、その実けっこうお寒いものではないだろうか。気候変動を考えても、多種・多品種の作物をつくること、作物の多様性を維持していくことは重要だ。米の栽培・収穫に使われる化石エネルギーの問題もある。その前に衰退する農業を何とかしなくちゃいけないと思いつつ、老親が送ってくれるコシヒカリを今日も食べている。

by greenerworld | 2007-11-04 11:34 | スローフード  

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