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[Book]『私はフェルメール』

 オランダ生まれの才能と自信にあふれた若い画家だったハン・メーヘレンは、当代の有力な批評家の一人でメーヘレンの最初の個展を好意的に紹介してくれたカーレル・デ・ブルの美しい妻を奪うことで、全ての批評家たちを敵に回してしまう。しかし彼が認められなかったのは、完成された古典的な絵画技法に拘泥し、批評家を虜にするような主題やオリジナリティを絵画の中に表現できなかったからだ。写真が発達し、絵画の世界には新しい波が訪れていた20世紀初頭のヨーロッパ。キュービズムやヴォーティシズム、ダダイズムの台頭を苦々しく思っていたメーヘレンは、何世紀にも渡りうち捨てられてきたフェルメールに深いシンパシーを覚える。

 メーヘレンは(真作が)30数点しかないフェルメールの作品に自分の描いた絵を潜り込ませることを思いついた。幸いなことに彼は、古典絵画の技法と当時の顔料の知識や技術を兼ね備えていたのだ。最初の何作かで批評家たちを引っかけると、まだ日の目を見ていないフェルメールの初期作品─カラバッジョに影響を受けた宗教作品─が存在するはずだという批評家アブラハム・ブレディウスの“予言”に合わせて、大作「エマオの食事」を描くのである。そして、ブレディウスにその絵を発見させるよう罠を仕掛ける。「エマオの食事」はブレディウスによって真作と鑑定され、ロッテルダムのボイスマン美術館に展示される。メーヘレンが、ナチスに協力した嫌疑で逮捕され,全てを告白するまで。

 メーヘレンが逮捕されすべての贋作を告白した後でさえ、その告白を否定する評論家がいたというのは驚きである。「エマオの食事」の完成度が高かった証拠だろうが、その後の贋作はモルヒネやアルコールの影響もあって次第に質が低下する。しかし、「エマオの食事」がフェルメールの真作であれば、その後の作品はたとえ中途半端な出来であっても、フェルメールの手によるものと判断されてしまう。オランダがドイツに占領された時代であればなおさらだ。そしてかのゲーリングまでもが、メーヘレンが描いた“フェルメール”作品を手にしたのである。

 著者のウインは書く。「彼(メーヘレン)の非凡な成功は、専門家を騙すような傑作を描いて黄金時代の巨匠と肩を並べたことにあるのではない。どんなに作品がまずくても、人体表現がお粗末でも、出所由来が不確かでも、最も学識あるフェルメール批評家たちはやすやすと醜いヘボ絵を真作として聖別する、そのことを証明したことにあった」

 ストーリー仕立てで話の運びはスリリング。ただ、おそらく原著のままなのだろうが、同じ人物が愛称で呼ばれたり、ファーストネームで呼ばれたり、ラストネームで呼ばれたり、出身地名で呼ばれたりするところは、翻訳に当たっては整理した方が良かった。何カ所か表現にわかりづらいところも。そのあたりで読みにくくなってしまったのは残念。

 『私はフェルメール』
 フランク・ウイン著/小林頼子・池田みゆき訳
 ランダムハウス講談社 1800円+税
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by greenerworld | 2008-01-05 18:00 | レビュー  

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