管理者へのメール / 管理者のプロフィール


ネルソン・マンデラとジョニー・クレッグ

 「マンデラの名もなき看守」は、見応えのある骨太の映画だった。後に南アフリカ初の黒人大統領に選出される黒人解放運動のリーダー、ネルソン・マンデラ氏と、その看守であったジェームズ・グレゴリー氏の、実話に基づくストーリーだ。

 人種隔離政策(アパルトヘイト)下で抑圧された黒人たちは、自由と平等な社会を目指して反体制運動を組織した。そのリーダーだったネルソン・マンデラは、国家反逆罪で捕らえられケープタウン沖にある監獄島・ロベン島に収容されていた。そこに赴任してきたのが、下級士官のグレゴリー。地方の農場で育った彼は、黒人の少年たちとつきあい、彼らの言語であるコーサ語を理解できたため、マンデラの監視にあたる任務を与えられたのだ。彼は、黒人政治犯たちの会話を聞き、届く手紙を調べあげて、組織の摘発に功績をあげる。

 しかしグレゴリーは、マンデラとふれあううちその高潔な人柄に惹かれ、禁断の「自由憲章(The Freedom Charter)」に目を通す。そこには白人と黒人がともに手を携えて暮らす理想の国の姿が描かれていた。

 グレゴリーは、黒人びいきとさげすまれ、家族の身の危険も感じるようになり自ら決意してロベン島を去ることになる。しかし、コーサ語のわかる彼を白人政権が手放すことはなかった。そして時代の流れは変わる。アパルトヘイトに対する国際的な非難が高まり、白人政権は窮地に陥るのだ。マンデラ抜きに南アの将来は考えられなくなっていた。マンデラはロベン島から本土のより条件の良い収容所に移される。そこでグレゴリーはむしろ交渉役や秘書のような役目でマンデラに対することになる。そして、89年のデクラーク大統領との歴史的な会談、翌年の解放と、グレゴリーは歴史の一こまをつくる側に回る。

 最後のクレジットに、映画で使われているManqobaという曲の提供者としてジョニー・クレッグ(Johnny Clegg)の名があった。ジョニー・クレッグは、イギリス生まれでローデシア(現ジンバブエ)やザンビア、南アで育ち、マンデラと同じウィトワーテルスランド大学に学んだ白人ミュージシャン。ザンビア時代は現地校に通い、黒人の子どもたちと机を並べて学んだこともあったと本人のサイトにある。ウィトワーテルスランド大では反アパルトヘイト運動家であった社会人類学者のデビッド・ウェブスター(1989年に秘密警察によって暗殺された)の薫陶を受ける。クレッグは70年代後半、ヨハネスブルグの黒人ストリートミュージシャンとバンドを組んだ。

f0030644_10491757.jpg 80年代の初め、ブログ子は渋谷センター街の奥にあったタワーレコードをよく覗いていた。あるときたまたま手にしたのが、JULUKAというバンドのScatterlingsというアルバム。ジャケットの絵(右)に惹かれたのだ。今なら「ジャケ買い」というのだろう。家に帰ってレコードに針を落とし、脳天を突き抜けるような衝撃を受けた。世の中にこんな音楽があったのか。強烈なアフリカンビート、美しいメロディ、そして英語と現地語混じりの歌詞。

 ずっと後で知ったのだが、JULUKAはジョニー・クレッグがストリートミュージシャンのシポ・ムクヌと組んだバンド名だった。Scatterlingsは、彼らが初の北米ツアーを行った時に制作されたものらしい。

 当時の南アでは、黒人と白人が同じバンドで、黒人の音楽と西洋音楽を融合し双方の言葉で歌うことなど許されることではなかった。しかも彼らの曲には政治的メッセージが込められていた。JULUKAの曲は南アで放送禁止となったが、それでも彼らのアルバムは口伝てでヒットしたという。

 Scatterlingsに納められていたScatterlings of Africaという曲には“African idea make(s) the future clear”という詞がある。もちろんそのままの意味で読んでいただいてもいいのだが、African ideaをFreedom Charterに置き換えてみると、そのメッセージが見えてくる。また、その後に出したWarsaw1943という曲のタイトルはカムフラージュで、歌詞にある卑劣な弾圧を行うファシストとは白人政権のことだと容易にわかる。87年には、JULUKAを解散(シポ・ムクヌが牛飼いの仕事に戻ったため)した後に結成したSAVUKAで、ネルソン・マンデラ氏をテーマにしたAsimbonanga(あなたが見えない)という曲も出している。ジョニー・クレッグの曲がマンデラ解放、そして南アの民主化・人種の融和に果たした役割は小さくないのだろう。

 日本ではあまり知られていないジョニー・クレッグ(&JULUCA,SAVUKA)だが、アマゾンでアルバムも買えるし、iTunesストアにも入っている。アフリカのエネルギーと未来への希望を感じさせてくれる。映画とともに、こちらもおすすめだ。
[PR]

by greenerworld | 2008-06-01 11:17 | レビュー  

<< 江戸は理想の循環社会だったか? エネルギー危機=食糧危機の到来 >>