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カテゴリ:生物多様性( 55 )

 

人はパラサイトに操られているのか?

f0030644_13224232.jpg 生き物好きの少年少女時代を送った方なら、ハリガネムシのことはご存知でしょう。秋に、カマキリのお腹の中から出てくる細長い生き物です。ハリガネムシは秋から冬にかけて水中で交尾し、卵を産みます。その後かえった幼生は、水生昆虫の幼虫の体内に潜みます。やがて羽化して陸上に飛び立った水生昆虫の成虫が、カマキリやバッタなどに食べられると、その体内で栄養をかすめ取りながら成長し、最後にはホスト(宿主)の行動をコントロールして、水辺に向かわせるパラサイト(寄生生物)です。ハリガネムシ以外にも、ホストを操るパラサイトは数多くいます。

 そんなパラサイトの世界を紹介した新刊が『ゾンビ・パラサイト──ホストを操る寄生生物たち』(岩波科学ライブラリー)です。ちょと不気味で不思議なパラサイトの世界をお楽しみください。私たち人間もどうやら、パラサイトによる行動操作と無関係ではなさそうなのです。

 <目次>
 はじめに
 第1章 ゾンビアリは真昼に死ぬ――菌類と動物の攻防
物語の中の寄生キノコ/中世の麦角中毒/冬虫夏草=昆虫寄生菌/ゾンビアリの最期の一噛み/菌・植物・昆虫の共進化/菌類とアルツハイマー病
 第2章 カマドウマの入水自殺・カワムツの奇行――パラサイトがつなぐ生態系
ハラビロカマキリの行列/ナゾの多いハリガネムシ/河川生態系機能を改変/ハリガネムシがホストを操るしくみ/カワムツの行動を変える吸虫/脳内神経伝達作用の攪乱
 第3章 体の中の“エイリアン”――ホストをゾンビ化する捕食寄生者
ミツバチはなぜ消えるのか/セイヨウミツバチのパラサイト/ミツバチに新たな脅威――ゾンビ蠅/ホストを食い尽くす「捕食寄生」/ホストと捕食寄生者をめぐる複雑な関係/ウイルスによるホスト免疫系の乗っ取り/ゾンビ化したホストをボディーガードに/クモをゾンビ化するクモヒメバチ
 第4章 人はパラサイトに操られるのか――原生生物トキソプラズマとネコと人類
農耕の始まりとネコの拡散/人類の3割が感染するパラサイト/ネコを恐れないネズミ/トキソプラズマと精神疾患/原因はドーパミンか?/トキソプラズマの3系統とその広がり
 あとがき

ゾンビ・パラサイト──ホストを操る寄生生物たち 岩波科学ライブラリー 1200円+税

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by greenerworld | 2016-12-10 13:35 | 生物多様性  

ハリガネムシの不思議

f0030644_08083558.jpg 昨年(2014年)近所の自然観察仲間のTさんから、近くの丘陵に続く道をハラビロカマキリが十何頭も下りて来るのを見たと聞いて、その去年と同じ日にその場所に行ってみた。途中ですでに住宅街の路上にぺしゃんこになったハラビロカマキリの死体が、ところどころにあるではないか。丘陵に近づくと果たして、向こうから何メートル置きか、ハラビロカマキリが道を歩いている。全部で10頭以上、みな低い方(この場合は南の方)へ向かって歩いている。たしかに山を下りて来るように見える。

 そう、ハリガネムシである。普段は樹上で暮らしているハラビロカマキリが、なぜ路上をよたよたと歩いているのか。それは体内に宿した寄生虫のハリガネムシに、操られて(?)いるからだ。カマキリの体内で成虫になったハリガネムシは、その後水中で交尾して産卵する。そして来年の春、卵から孵った微少な幼虫が水生昆虫の体内に侵入し、その水生昆虫が羽化してカマキリに食べられると、その体内で成熟するという、ライフサイクルを持っている。どのようなメカニズムかはよくわからないが、ハリガネムシはそのライフサイクルを完結させるために、宿主であるカマキリを水辺に導くのだ。

f0030644_08084971.jpg 平地ではカマキリが多いが、上流部ではカマドウマやキリギリスなどに寄生するハリガネムシがいる。寄生されたカマドウマは渓流に飛び込んで、魚の餌になる。その際に魚の口や鰓からハリガネムシは脱出する。

 さて、ハラビロカマキリ、もう1頭のほうからはハリガネムシが出てこなかったので逃がそうと思って手に取ったら、いきなり出てきた。それも2匹である。この日は3匹のハリガネムシが手に入った。サンプルとして研究者に送ったら、2匹はメスだったそうである。
 
 今年は秋の訪れが早かったので、それまでにも何度か確認しに行っていたのだが、見あたらなかった。それが去年とまったく同じ日にカマキリが山を下りて来たのはただの偶然なのか、来年も確認してみなければならない。ハリガネムシ、まだまだ不思議が多い。

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by greenerworld | 2015-10-25 17:08 | 生物多様性  

トウキョウダルマガエルの調査

 私の住む東京・あきる野市でこんな調査をやっています。

http://www.city.akiruno.tokyo.jp/0000005945.html
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 トウキョウダルマガエルは関東から東北南部、長野県と新潟県に生息するダルマガエルの亜種で、トノサマガエルの生息域とはほとんど重なっていません。以前は古い時代にトノサマガエルと交雑した子孫だと言われていましたが(ダルマガエルよりスマートで模様もトノサマガエルに似ている)、最近ではダルマガエルから地理的隔離によって独自に進化したと考えられています。ダルマガエルは新しい進出者であるトノサマガエルによって生息域が狭められましたが、トウキョウダルマガエルは、高い山々のお陰でトノサマガエルの影響(侵略)を免れたともいえます。

 以前、自然保護仲間と話していて、実は都内ではトウキョウサンショウウオよりもトウキョウダルマガエルの方が危機的なんじゃないかという結論に至りました。思いつく生息地が、あきる野市内でも数カ所しかありません(丘陵や山地にはいません。平地の田んぼのカエルなのです)。多摩川水系ではほとんど見られなくなっているはずで、家の近くのかろうじて残っている水田でも、水が張られるころに声はするけどかなり少ない。成体は多摩川支流の平井川ですごしていて、産卵時期だけやってくる感じになっています。ここも水田耕作をやめてしまえばいなくなってしまうでしょう。

 ただ河川敷に湾処(ワンド)のあるところでは生息の可能性がありますので、多摩川下流方面の方もぜひ探してみて下さい。夜にけっこう大きな声で鳴きます。鳴き声はこちらにあります。
http://www.hitohaku.jp/material/l-material/frog/zukan/mp3/Ka105.mp3
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by greenerworld | 2015-04-20 10:47 | 生物多様性  

アカガエルがやってきた!

 地元に残る「里山」の砂防堰堤(ダム)上部にできた水たまりが、ちょうどよいカエルたちの産卵池になっている。やってくるのはヤマアカガエル、モリアオガエル、最近はトウキョウサンショウウオも少数だが産卵するようになった。ところがここには大雨の時上流から土砂が押し寄せる。砂防堰堤はこうやっていつか埋まってしまうものなのだが、それではカエルたちが産卵できる場所を失ってしまう。

 以前はこの川の両側にも、支流の谷戸にも田んぼがあって、そこがカエルやサンショウウオたちの産卵場所だった。今ごろの季節は、ヤマアカガエルのカエル合戦でそれはそれはにぎやかなことだったろう。しかし耕作放棄や残土の捨て場となったことなどから、水場が縮小、近年はほとんど産卵できる場所がなくなっているのだ。トウキョウサンショウウオに関しては毎年この地区で産卵調査を行っているが、激減といってよい。アカガエルも、近くの寺院の池以外で産卵を見たことがない。そんなわけで両生類の復活を願って、近くの公有地に両生類の産卵できる水場(カエル池)を一昨年の暮れに掘った。

 今日は砂防堰堤の上の池に、土砂が流れ込まないようにする作業。堰堤の上は少し開けていることから、コサナエ、ムカシヤンマもいるとのことで、トンボが専門のS氏の呼びかけで集まったのは12名。2時間ほどの作業で、池の入口部分を広げ、上流部分に土砂を止める池を掘った。十分ではないが、産卵時期でもありあまり大がかりな作業はできない。本格的な修復はこの秋にということにした。ポカポカ陽気の中自然好きの面々ばかりということで気持ちよく作業ができた。
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作業プランを検討
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上流側に土砂止めの池を
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池の入口は土砂が入っても良いように少し広げる

 市の森林レンジャー二人も参加、スペイン出身のA氏は日本の自然や生物にやたら詳しい。とくに両生類が好きらしく、池掘りももっとやりたいという。でブログ子の掘った前述のカエル池も何日か前に確認していて、「ヤマアカの卵ありました」という。

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 作業後そちらに回ってみると、2か所掘った下流の方に、卵塊が5つ。親も1匹浮かんでいた(左)。いやあ、うれしい。周辺にはまだ生き残っていて、産卵場所さえつくってやればこうしてやってきてくれるのだ。こちらも、この秋以降本格的な産卵場の復元に着手しようということになった。仲間がいれば百人力。あとはトウキョウサンショウウオが産卵に来てくれると良いのだが……。

 もう一つ心配なのは侵略的外来種のアライグマがこの地区で増えていること。アライグマに頭をかみ切られたトウキョウサンショウウオの死体を何匹も見ている。この対策も取らなくてはいけないが、まずは一歩ずつ。

 西多摩地域全体でも、両生類とくに止水性の両生類の産卵場所が減っている。まだ生き残っていれば休耕田などを利用して産卵場所を確保できる。成功事例はたくさんある。全国的にもこうした活動を広げていけないか、ちょっと考えている。名付けて「両生類救援隊」。早々とツイッターのハッシュタグ(検索用のタグ)も作ってしまった→ #amphiresQ 。
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by greenerworld | 2011-03-09 19:16 | 生物多様性  

ナラ枯れそしてカラマツ枯れへ

 日本ではマツ枯れに続いてナラ枯れが猛威をふるっている。そんな中、イギリスではカラマツ枯れが深刻な問題になっているという。これはもともと急性ナラ枯れ(sudden oak death)として知られていた木の感染症だ。日本のナラ枯れはカシノナガキクイムシ(カシナガ)が運ぶ菌類が原因だが、sudden oak deathは疫病菌の一種 Phytophthora ramorum の感染によるもの。胞子が風で運ばれるし、靴やタイヤについても運ばれる。非常に感染力が強いという。

 イギリスには、アメリカから苗木について運ばれたと見られている。そのアメリカでは、カリフォルニア州など西海岸でナラ類(オーク)を中心に枯損被害が出ている。イギリスに入ってきた当初、オークにも感染したようだが、被害は広がらなかった。つまりイギリスのオークはこの菌に対して抵抗力を持っていたようだ。ところが、どうしたことか P. ramorum はカラマツに感染した。すると爆発的な感染力で周辺のカラマツや他の針葉樹にも広がっていった。P. ramorum に何か遺伝的な変異が起きたのだろうか。

 P. ramorumはアジア起源だと考えられている。まず(多分)日本からヨーロッパに送られたツバキ科やツツジ科の園芸種についてヨーロッパに渡り、そこからさらにアメリカに送られた。そこで sudden oak death を発生させ、またイギリスに戻ってきた。アメリカでも何らかの変異を起こした可能性がある。

 最初にイギリスで感染が広がったカラマツはニホンカラマツだったらしい。用材用にかつて日本から送られたものだ。日本の疫病菌がイギリスでニホンカラマツと出会い、感染爆発を起こしたことになる。

 疫病菌と言えば、19世紀のアイルランドでポテト飢饉をもたらしたのも疫病菌の一種P. infestansだった。この菌の蔓延でジャガイモはほとんどとれなくなり、貧しい農民たちの多くが餓死した。もっともこれだけの餓死者が出たのは、当時アイルランドが事実上イギリスの植民地であったという社会的な要因が大きい。さらに多くのアイルランド農民は故郷を捨て、新天地アメリカに渡った。このアイルランド移民の子孫から、J.F.ケネディやH.フォードが出たのだから、疫病菌の猛威は世界の歴史を変えてしまうほどのものだったと言える。

 P. ramorumがイギリスから一衣帯水のヨーロッパ本土に渡るのも時間の問題のように思える。そうなれば感染木が用材として日本に入ってくる可能性もある。ニホンカラマツは甲信地方から北海道にかけての重要な用材林の構成種で、ここに感染が広がったら恐ろしいことになる。

 動植物の移動はこうした新たな感染症を広げ、場合によってはその地域の農業や生態系に大きな影響を与えることがしばしばある。最近の話題になったものでは、カエルツボカビ病やラナウィルス、ミツバチの集団崩壊病の原因と疑われるダニやウィルスがある。古くはマツ枯れがそうだし、ナラ枯れも材木や苗木の移動が原因かもしれない。生物資源の長距離の輸送について、考え直すときに来ているのではないだろうか。
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by greenerworld | 2011-01-16 23:00 | 生物多様性  

クニマスにとって幸か不幸か?

 かつて秋田県の田沢湖に生息していて、絶滅して(正確には“絶滅させて”)しまったクニマスが富士五湖の一つ西湖で70年ぶりに発見されたことが話題になっている。サケ科の魚類には海に下って成長する降海型と、一生を淡水で過ごす陸封型があるが、クニマスはベニザケの陸封型で、同じベニザケの陸封型であるヒメマスとは亜種関係にある(つまりクニマスはベニザケの亜種)。生息が知られていたのは田沢湖だけで、1940年に玉川から強酸性の水が導入されたことにより他の魚種とともに絶滅してしまった。今回発見されたのはかつて西湖に放流された受精卵から発生し生き残っていたもののようだ。西湖にはヒメマスも放流されていたが、交雑することなく代を重ねていた。産卵時期や生息域が異なることが交雑しなかった理由と見られており、この2亜種はかなり分化が進んだ状態にあると言えるのではないか。

 絶滅種・絶滅危惧種を記載したレッドリストは当然見直しされることになるが、どのカテゴリーに位置づけられるのか。環境省のレッドリストカテゴリーの定義では、野生絶滅を「過去に我が国に生息したことが確認されており、 飼育・栽培下では存続しているが、我が国にお いて野生ではすでに絶滅したと考えられる種」としている。この定義に従うと、西湖では野生状態で繁殖しているので、野生絶滅ではなくその下の絶滅危惧のようにも思える。そこで、レッドリストの元になっているIUCN(国際自然保護連合)の基準を調べると、野生絶滅は「栽培・飼育下または過去の生息範囲の外での移植個体群でしか生き残っていない場合」としている(2001 IUCN Red List Categories and Criteria version 3.1)。こちらに従えば「野生絶滅」ということになる。絶滅したはずのトキを中国から譲り受けた個体群が飼育下あるからと、野生絶滅に位置づけている環境省はどういう判定を下すのか。いずれにしても西湖では「外来種」であり自然分布ではない。クニマスを原産地から絶滅させてしまったという事実を帳消しにするような美談ではなかろう。

 早速、原産地の田沢湖にクニマスを戻そうとする動きも出てきた。これも地域振興に絡めて。トキやコウノトリでの地域活性化にあやかろうとするものだろう。またこの話題がひとしきりメディアを賑わし、クニマス詣でも増えることだろう。絶滅種が遠く離れた場所とは言え生き残っていて再発見されたのは喜ばしいことだというべきだろうが、クニマスにとっては、そのまま誰にも知られずに西湖でひっそりと生きていた方が、幸せだったかもしれないなと、思ってしまう。ほっといてくれればよかったのにと、さかなクンを恨んでいるかもしれません。
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by greenerworld | 2010-12-22 10:19 | 生物多様性  

ナラ枯れの「感染爆発」その原因は…

 日本海側を中心に、ナラ枯れの被害が拡大している。ナラ枯れについては、以前にも書いたので詳しくはこちら(http://greenerw.exblog.jp/14725495/)を参照していただくとして、今年の被害の状況は、まさに猛威と言うべきだ。11月に訪れた京都・高雄でも、一山が紅葉ならぬ「褐葉」しているのを見た。

 ナラ枯れの発生は、1980年代に福井あたりの日本海側から始まったとされ、山陰から秋田、岐阜・愛知さらに長野・福島・宮城にも侵入した。今年は新たに静岡・群馬でも確認された。一種の「感染爆発」のような状態になっている。首都圏の一部(群馬県みなかみ町)にも侵入したことから、利根川流域を下って関東平野に達するのも時間の問題かもしれない。まだ発生が確認されていない山梨県では、以前から薪やシイタケのほだ木に神経をとがらせている。感染した原木が県内に持ち込まれるおそれがあるからだ。しかし、シイタケ原木や薪はいまやかなり広域に流通しており、感染地からの持ち出しを禁止しない限り、持ち込まれる側が水際で食い止めるのは不可能に近い。

 しかし、こうした移動経路があり得るということから考えさせられたのが、ナラ枯れはどこからどうやってきたのか、という点である。

 ナラ枯れの被害状況、カシナガの生態などナラ枯れ全般については、森林総研関西支所の以下の報告書にまとまっている。

 http://www.fsm.affrc.go.jp/Nenpou/other/nara-fsm_201003.pdf

 この中で、カシナガの分布域として日本、台湾、インド、ジャワ、ニューギニアなど東南アジアとあり、日本では戦前から南九州で発生記録があるという。しかし、その当時は散発的発生であったらしい。分布の中心は熱帯~亜熱帯で、カシナガは穿孔性であることから、流木に潜り込んだまま日本にたどり着いた可能性もある。穿孔性の昆虫はしばしばこういう分布の広げ方をする。その当時爆発的な広がり方をしなかったというのは、何らかの抑制因子があったのだろう。カシナガは樹齢50年以上の大径木を好むと言われ、その当時は薪炭林として使われていた里山にはあまり大径木がなかったということもあったかもしれない。しかし、現在の本州での感染爆発は、単に里山が放置されて大径木が増えているからだけとは思えない。

 今回の発生の広がり方は、外来種にしばしば見られるパターンであり、何か偶発的な侵入があったのではないかという疑念がわく。もともと南日本には自然分布(流木などが起源?)のカシナガがいた。しかし、天敵(寄生バチなど)の存在で大きく広がるようなことはなかった。今回のカシナガはそれとは別に日本にやってきたと考えた方がいいのではないか。

 各県のホームページから、最初の発生時期を調べてみると、1964年に敦賀で発生(散発的)、その後80年にやはり敦賀で発生しており、同時期に滋賀県の福井県境でも発生しているという記録がある(下表)。今回の拡大の始まりはこのあたりと見られる。

 最初の発生確認(各府県ホームページより抜粋)
 山形県 1991年 旧朝日村
 新潟県 1988年 旧東頸城郡
 富山県 2002年ごろ
 石川県 1997年 加賀市
 福井県 1964年 敦賀市
     1980年 敦賀市
 京都府 1990年以降拡大
 滋賀県 1980年ごろ 福井県境
     1997年ごろから県北部で拡大
 兵庫県 1992年以降北部地域を中心に拡大

 元がどこなのかはよくわからないが、経路としては移入木材チップやシイタケ原木などが考えられる。これはあくまで仮説に過ぎないが、海外から(敦賀港あたりに)陸揚げされた原木やチップの中に、カシナガの幼虫が潜り込んでいたか卵が産卵されたものがあり、そこから羽化したカシナガが周辺の林のナラの木に移動した。そして天敵を伴わないため、短期間に爆発的に広がるようになった、のではあるまいか。

 東南アジアのカシナガ、南九州のカシナガと今回発生地のカシナガのDNAを調べることで、侵入経路の一端が見えてくるかもしれない。
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by greenerworld | 2010-12-07 13:24 | 生物多様性  

猛暑とナラ枯れとクマの出没

 自然環境の保全活動をされているUさんから、ナラ枯れ病の蔓延とクマ(ニホンツキノワグマ)の出没が関係あるのではというメールをいただいた。ニュースになっているのは全て日本海側で、ナラ枯れの被害が広がっている地域だからだ。今年は夏の猛暑と干ばつもあり、その影響にナラ枯れも重なって、これらの地域で山にクマの食料となるドングリや栗、ブナなどの実が少なくなっていることは十分に考えられる。話は変わるが、庭の紺菊は例年だと9月下旬に花を咲かせるが、今年はまだ咲かない。夏に下葉が枯れ、花芽の形成が遅れたようだ。ここへ来てようやくつぼみがついたが、枯れた葉の後から伸びた葉は小さく全体に弱々しい。植物には今年の暑さは相当にストレスになったはずで、それは野生動物にとっても同様にちがいない。

 クマの出没による被害ばかりが問題になるが、クマも生き延びて子孫を残すために必至なのだ。このような年には十分に栄養をとることができず、越冬や翌年の繁殖に影響が出る。クマは秋に大量の餌をとって脂肪を体内に蓄え、絶食状態で冬眠する。出産も越冬中に行うが、栄養状態が悪いメスは出産できない。ニホンツキノワグマの生息数は数千頭とされるが正確な統計はない。九州ではすでに絶滅したし、四国・中国地方・紀伊半島などでは、絶滅のおそれが高い。全体でもいつ絶滅危惧種になってもおかしくない状況にある。

 それにしても、COP10に合わせたようなクマの出没騒ぎ。オレたちにもひと言いわせろ! とアピールしているかのような……。
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by greenerworld | 2010-10-20 08:39 | 生物多様性  

ナラ枯れの被害

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 先月下旬に滋賀県を訪問したとき、山々のところどころに葉が茶色くなった木が目についた。まだ紅葉には早い。これがナラ枯れらしい。マツ枯れに次いで深刻になりつつある樹木の「感染症」だ。

 ナラ枯れという言葉を初めて聞いたのは、5年くらい前、山形県小国町で。この地域ではナラといえば、冷涼な気候に適したミズナラで、その林のところどころが枯れ始めているという。調べてみると、カシノナガキクイムシ(略してカシナガ)という穿孔性の甲虫の一種が原因で、当時京都北部や福井、滋賀、岐阜あたりで被害が広がっていた。それが、日本海沿いに北上して、とうとう山形県にまで達したのだった。

 マツ枯れの原因はマツノマダラカミキリ(松食い虫)が媒介するマツノザイセンチュウで、これは戦前に外洋材にくっついて日本に入ってきた。それが高度成長期以降に平地のマツから、山地へ、北部へと広がっている。

 カシナガの方は、カビの一種をコナラ、ミズナラなど宿主となる木に感染させる。幼虫はこのカビを食べて育つという共生関係にある。穴を開けられ、カビに感染した木は水を吸い上げられなくなって枯れてしまう。

 ナラ枯れというものの、原因昆虫にカシという名のつくとおり、アラカシやアカガシなどの常緑性のコナラ属(quercus)やシイ類にも感染する。以前は、発生が南日本中心で、むしろ「カシ枯れ」だったし、発生は単発的だったという。一方で最近の“流行”では、ブナにも被害が広がっている。カシナガの起源はよくわかっていないが、台湾や東南アジアにも分布しているようだ。穿孔性昆虫は流木に潜んだまま運ばれることがあるので、海流にのってやってきた可能性は否定できない。ミズナラやブナのような冷温帯の木に感染するようになったのは、昨今の温暖化も関係があるのだろうか。

 また、カシナガは大径木に感染することが多いのも特徴で、その意味では森林を更新させる役割があるとも言える。しかし、一方でブナやミズナラ、コナラなどの実は、クマやイノシシ、野鳥など野生生物の大切な食料でもある。ナラ枯れの蔓延で山に木の実がなくなれば、クマが人里に出没するということにもなりかねない。

 薪炭林として使っていた広葉樹林(いわゆる里山)が放置され、木々が大木化したところに、広がったと考える研究者もいる。薪炭林では、コナラやクヌギを中心とした落葉広葉樹を15~25年程度で切り倒し、ひこばえ(萌芽)を育てて更新していた。マツ枯れにも言えることだが、人間の干渉がなくなったことで、自然のバランスが崩れたのだとしたら、かつてのように林を利用するようになれば、被害は減っていくのだろうか。

 ナラ枯れがここ10年に満たない短期間に爆発的な広がりを見せている原因は、明らかではない。カシナガには寄生バチなどの天敵もいるはずだが、それが被害地域には追いついてきていないのかもしれない。何かがきっかけで、複雑なドミノ倒しのような連続崩壊が起こることは自然界では往々にしてある。ナラ枯れがより大きな崩壊の前触れでないことを祈る。
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by greenerworld | 2010-10-04 20:08 | 生物多様性  

メダカの遺伝子鑑定体験

 メダカ里親の会の企画で、宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターにて、メダカのDNA抽出・鑑定の実際を体験することができた。いつも偉そうなことを言っているが、生物化学、分子生物学の知識は大学時代にかじって以降、あまり進歩していない。

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 メダカの尾びれからDNAの抽出、PCR法(DNA合成酵素を使った増幅法)、電気泳動と一通りを体験。もっとも肝心なところはほとんど学生さんにやってもらったのだが……。遺伝子鑑定技術も実験機器類も長足の進歩。それでもなお地道な作業をコツコツとこなすことが求められる。ミトコンドリアDNA鑑定では、栃木県内の貴重な個体群も確認された。フィールドと研究室の両輪によって、科学は推進される。とくに生物学の分野では、研究者とNPO・アマチュアのコラボレーションは重要だとあらためて思った次第。
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by greenerworld | 2010-10-03 20:35 | 生物多様性