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カテゴリ:レビュー( 25 )

 

【新刊案内】うつも肥満も腸内細菌に訊け!


f0030644_20003693.jpgあなたの不調も腸内細菌の乱れが原因かもしれない

 近年、私たちの腸内に住む細菌(腸内細菌)についてさまざまなことが明らかになっています。
 とくにこの10年あまりのDNAレベルでの細菌探索技術の進歩で、これまで見えていなかった腸内細菌の驚くべき多様性と機能に光が当たっています。その生態や人体において果たしている役割は、これまでの私たちの常識をはるかに超え、腸と脳を結ぶ複数の経路=脳-腸軸を通じて私たちの体や心、そして健康と不可分に関わっていることがわかってきました。
 便秘や下痢はいうに及ばず、気分障害、精神疾患、自閉症、パーキンソン病、アレルギーや自己免疫疾患、食欲、肥満や生活習慣病、癌、さらには老化と、およそありとあらゆる心とからだの問題に、腸内細菌との関わりが指摘されています。近年増加している、「現代病」や「先進国病」などと呼ばれる疾病や障害の多くが、腸内細菌叢の乱れによってもたらされていると考えられています。
 進化生物学や生物多様性の視点からも、腸内細菌と私たちとの相互関係は実に興味深いものがあります。腸内細菌とは、たまたま私たちの腸内に住み着いた細菌なのではなく、動物が腸(消化管)をもった当初から、そこには細菌が住み着いていました。腸内細菌とは地球史レベルの長い時間をかけて、私たちと共生関係を結んできたパートナーなのです。
 そんな腸内細菌と脳-腸軸研究の最新成果を、わかりやすく紹介したいと考えて本書をまとめました。私たちの腸内には、内なる小宇宙と呼ぶにふさわしいフロンティアが存在します。その入門書として読んでいただけたら幸いです。

うつも肥満も腸内細菌に訊け!』(岩波科学ライブラリー、1300円+税)

<目次>
1 脳になりそこねた器官
脳-腸-細菌軸の発見/腸は第2の脳?/わかってきた脳-腸軸/まず腸があった/脳が大きくなれば腸は小さくなる?/地球はバクテリアの星/進化の伴走者
2 ストレスと腸とセロトニン
ストレスとは何か/ストレスと病気/セロトニンと過敏性腸症候群/セロトニン産生を促進する腸内細菌/セロトニン増減のメカニズム/脳と腸と腸内細菌を結ぶチャンネル
3 自閉症とGABAと脳-腸連関
自閉症スペクトラム障害/ディスバイオシスとASDの関係/細菌代謝物の影響/神経伝達物質GABA/腸は脳を支配するか/パーキンソン病は腸から始まる?
4 あなたの食欲を支配するもの
ファーストフードが壊した腸内細菌叢/肥満と腸内細菌の関係/ヨーヨー効果と肥満の記憶/満腹感・空腹感のメカニズム/腸内細菌代謝物と摂食行動/食の好みも細菌次第
5 善玉菌・悪玉菌と免疫システム
善玉菌・悪玉菌・日和見菌/プロバイオティクスとプレバイオティクス/クロストリディウム属は善か悪か/腸管免疫システムと腸内細菌の関わり/制御性T細胞とクロストリディウム/抗生物質と食物アレルギー・肥満の関係/大腸癌と2つの制御性T細胞
6 腸内細菌を解明する
文明未接触の種族/アフリカ狩猟採集民の腸内細菌叢/見つかった抗菌剤耐性遺伝子/新生児の腸内細菌の由来/メタゲノム解析が明らかにする全体像/日本人の腸内細菌叢の特徴/人類の進化は腸内細菌とともに/脳の進化と腸内細菌

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by greenerworld | 2017-11-16 20:07 | レビュー  

映画『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』

古居みずえ監督作品『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』
5月7日よりポレポレ東中野でロードショー。以後、横浜、名古屋、大阪で公開。上映時間95分
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 2011年3月の福島原発事故による放射能で汚染され、計画的避難区域に指定された飯舘村。村民は周辺地域や県外へ避難してちりぢりになり、不自由な避難生活ももう5年になります。
そんな中で、佐須地区のご近所同士、菅野栄子さんと菅野芳子さんは、伊達市内の仮設住宅でも隣室同士。

 栄子さんは、村ではご主人とともに米や野菜づくりと酪農を営んできました。伝統食の凍み餅や凍み豆腐、そして地区の女性たちとともに味噌の製造販売にも取り組んできました。

 酪農は70歳で「卒業」し、震災・原発事故の前年にはご主人とお姑さんを相次いで亡くします。栄子さんは事故の年の夏、伊達市内にできた仮設住宅に避難しましたが、原発事故前一緒に暮らしていた息子さんは早くに避難したため別々の避難先に。息子さんは避難後に結婚、お孫さんも生まれましたが、本来なら「内孫」として面倒を見ていたはずなのに、写真を眺めるだけの日々。

 芳子さんは、埼玉県の息子さんのところにご両親とともに避難しましたが、ご両親はその夏に、避難先で相次いで他界してしまいます。芳子さんは慣れない都会にいるよりはと、飯舘村に近い栄子さんのいる仮設住宅にひとりで引っ越してきました。そしてふたりで、仮設住宅の近所に畑を借り、村にいたときと同じように、野菜を作り始めました。支援者とともに味噌づくりや凍み餅づくりも再開します。

 お彼岸やお盆といった節目には、軽トラックを運転して、仮設住宅から飯舘村のわが家に向かう栄子さんたち。しかし荒れ放題の農地、除染廃棄物の黒いフレコンバッグの山を見て、心が塞ぎます。除染が済めば国は避難指示を解除するつもりですが、山林には放射能が残ったまま。若者も子どもたちも戻ってこず、かつての村には戻りません。村に帰ってたとしても、それぞれが大きな家に独り暮らし。何より放射能に汚染されてしまった村に帰ることにためらいがあります。いったいこれからどうしたらいいのか、ふたりの心は揺れ、千々に乱れます。

 そんな日々の中で芳子さんが病に倒れます。栄子さんは動揺して、なかなか御見舞いに行くことができません。ようやく決心して、芳子さんの入院する病院へ向かう栄子さん……。
原発事故のもたらした理不尽さに対するやるせなさと怒りを押し込めて、ふたりの明るい笑い声が全編に響きます。「笑ってねえどやってらんねえ」
ぜひ、多くの方に観ていただきたいと思います。

『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』公式ページ
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by greenerworld | 2016-04-16 18:44 | レビュー  

『れくいえむ』(郷静子著)

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 この作品を初めて読んだのはちょうど40年前の夏。作者の郷静子さんは、その前年に本作で芥川賞を受賞、夏休みに入る前に担任の国語教師から単行本を渡され、県のコンクールに出すから読んで感想文を書くように言われた。夏休みからは受験勉強のつもりだったから、気が進まずにいたが、読み始めると、そのまま一気に読んでしまった。

 太平洋戦争末期、横浜にある仏教系の私立高等女学校に通う節子は一途な軍国少女である。節子の兄は、東京理専を中退して海軍予備学生として、特攻隊に配属される。

 節子は学内で起こったふとした事件から、2歳年下のなおみと知り合う。なおみの父はアメリカへの留学経験もあるリベラルな大学教授で、論文を軍批判と咎められて獄につながれている。節子を慕うなおみは、自分自身も頑張って軍国少女になろうと決意するが、父親のことで謂われなきいじめや不当な扱いを受け続ける。

 節子の回想と、節子となおみの交換ノートによってストーリーは展開する。戦局はいよいよ緊迫し、節子ら高女3年生(14歳〜15歳)も、工場に動員される。

 最初から最後まで、おびただしい死が描かれる。淡々と。死は日常茶飯事なのであった。節子は戦争と病気という二つの死に取り憑かれる。空襲はいよいよ激しくなり、節子はなおみを失い、ひそかに慕う人を失い、家を焼かれ、父や母を失う。かつて日本軍が中国を空爆した場面をニュース映画で観て万歳を叫んだことを節子は思い出し、その下に多くの命と日常があったことに思い至るのだ。それでも節子は工場に通うことをやめない。不治の病であった結核に冒されながらも、ただただひたむきに日本の勝利を信じ、疑わなかった。そして敗戦の日を迎える。それとともに彼女の信じてきたものは全て跡かたもなく消え失せた。

 集団的自衛権についての憲法解釈見直しなど、現政権の「軍国化」路線が気になり、読み返してみたくなったのだが、単行本はおろか文庫も絶版で、古本を取り寄せるしかなかった。かなり傷んだページを繰り始めると、あの夏と同様、一気に読み終えた。あらためて、若い人に読んでほしいと思った。絶版なのは残念でならない。
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by greenerworld | 2014-08-15 11:23 | レビュー  

[BOOK]『世界は貧困を食い物にしている』

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[BOOK]『世界は貧困を食い物にしている』
ヒュー・シンクレア著
朝日新聞出版

 2006年にグラミン銀行とユヌス総裁がノーベル平和賞を受賞し、注目されたマイクロクレジット(マイクロファイナンス)だが、大半のマイクロファイナンス機関(MFI)の実態は、貧困者への高利貸しだという話。貸し付け基準が甘く、融資が貧困者の自立に役立たないどころか、生活費や家電品の購入や別の借金の返済に使われ、不当に高い利子は内部統治のゆるいMFIの現地経営陣や先進国の投資家に吸い上げられていく。さらにそれが、新興国や発展途上国の富の流出を増す結果になる。

 著者はグラミン銀行を批判しているわけではなく、グラミン・モデルは有効だと考えている。それが新しい獲物を求める「金融ビジネス」に乗っ取られてしまったことが問題なのだ。マイクロファイナンス立て直しに関する提案は示唆に富む(少なくとも私には)し、日本でもおそらく有効だ。
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by greenerworld | 2013-04-24 11:28 | レビュー  

『飯舘村 6000人が美しい村を追われた』

f0030644_9125139.jpg 昨年の東日本大震災とそれに続く福島第一原発の過酷事故から早くも一年がたちました。この間、放射能に高濃度に汚染され計画的避難地域に指定された福島県飯舘村の支援活動に携わるとともに、京都大学原子炉実験所の今中哲二助教らと放射能汚染調査に入り、村民の窮状や汚染実態を目の当たりにしてきました。

 飯舘村は原発交付金とも無縁で、自立をめざした村づくりを進めてきました。ところが福島第一原発から放出された高濃度の放射能雲は、30km以上離れた飯舘村に、雨や雪とともに降り注いだのです。さらに政府の事故隠し、汚染隠しや「安全」の流布によって、村民の多くは村内にとどまり続けました。計画的避難地域に指定されてからも避難完了までには長い時間がかかり、その間にも被曝を重ねました。その経緯は理不尽という一言では、とても言い尽くせません。

 なぜここに至ったのか、事故後に村で何があったのか、それらを明らかにしておくべきと考え、私が知り得た事実と村民へのインタビューをまじえてまとめたのが『飯舘村 6000人が美しい村を追われた』です。

 この原発災害が飯舘村を襲ったのは全く偶然にしか過ぎません。地震の巣である日本列島に54基もの原発が存在している日本の、どこででも起こり得たことです。

 『飯舘村 6000人が美しい村を追われた』
 小澤祥司著 七つ森書館刊 2012年3月9日発売 定価1800円+税

 出版社のページ http://pen.co.jp/index.php?id=649
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by greenerworld | 2012-03-07 09:14 | レビュー  

[MOVIE]10万年後の安全

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 10万年前といえばまだ人類(ホモ・サピエンス)はアフリカにとどまり、中東・ヨーロッパにはネアンデルタール人が、アジアにはホモ・エレクトゥスが君臨していた時代だ。

 では今から10万年後には、どのような人類がどのような文明を築き、どのような言葉を話しているのだろうか。

 マイケル・マドセン監督の『10万年後の安全』(原題:Into Eternity)は使用済み核燃料の地層処分をテーマにしたドキュメンタリー映画だ。オープニングはフィンランドの凍てついた大地に掘削された地下トンネルへの入口を映し出す。ここでは地下400m以上、距離は数kmにも及ぶ広大な地下空間の掘削が進んでいる。オンカロとはフィンランド語で「隠し場所」という意味だという。ここに隠されるものとは原子力発電に使った後の使用済み核燃料である。その中には半減期が2万4100年というプルトニウム239や6560万年のプルトニウム240が大量に含まれている。

 オンカロには、中間貯蔵施設で数十年間冷却されたあとの使用済み核燃料が埋められる。使用済み燃料には何重ものシールドが施され、放射能がなくなるのを待つ。アルファ線を放出するプルトニウム239の放射能は、10万年を経てようやく元の16分の1まで減ずる。オンカロ・プロジェクトの終了は100年後。その後はオンカロ自体がほぼ永久に封印されることになる。オンカロの建設が進んでいる場所は、18億年前からの安定した地層だという。

 映画は、関係者や専門家へのインタビューと、オンカロ建設現場、建設現場で働く人々の姿を淡々と追いながら、未来の“人類”に語りかける形で進む。しかし、未来の人々に絶対に掘り起こされないという保証はない。マドセン監督は、一体どうやって彼らにこの場所が危険であるのかを知らせるか、そんなことが可能なのかを問う。10万年もの間変わらないコミュニケーションの方法はあるのか。危険を知らせるはずの石碑が逆に彼らに好奇心を抱かせてしまわないか。口伝のような方法が有効なのか。そもそも彼らはホモ・サピエンスであるのか。数万年あれば新しい種に入れ替わっていたとしてもおかしくない。

 世界にはすでに25万トンもの使用済み燃料がある。その処分方法がはっきりと決まっているのはオンカロだけだ。日本でも最終処分は地層処分が想定されている。しかしその調査ですら、いまだ正式に実施できた場所はない。だいいち日本にはオンカロのような安定した地層はどこにもないのである。

 たったいまあなたが使っている電気を起こすために、原子力発電所では処分のあてのない使用済み燃料が溜まり続けている。その量は日本だけで年間1,000トンにも及ぶ。

 全国巡回上映中。

 10万年後の安全公式サイト
 http://www.uplink.co.jp/100000/

 オンカロ・プロジェクトの英語ページ
 http://www.posiva.fi/en/research_development/onkalo/
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by greenerworld | 2011-06-03 18:17 | レビュー  

白馬村のあったかごはん

f0030644_9315667.jpg 『白馬村のあったかごはん』というタイトルの、素敵な本をいただいた。季節の食材を使った伝統料理に、少しアレンジも加えた60品のレシピが写真とともに紹介されている。白馬村は北アルプスの山々とスキー場と温泉で有名な長野県北部の村。野菜や穀類、山川の幸に加えて、日本海から運ばれてきた海の幸も食卓に上る。とくに凝ったものではなく素朴な料理ばかり。竹の子汁やナメコ汁にサバ缶を使ったり、ソバも打たずに薄焼きにしたり、手間ひまかけずにできるものも多い。やってみたいと思ったのは「焼きおにぎりのきのこあんかけ」や「みそ切り」という味噌味の小麦粉のお菓子。かぼちゃと小豆の「いとこ煮」は、冬至の定番。“長野名物”煮いかや塩丸いか料理もある。ヘルシーでおいしいおばあちゃんの味を伝えていきたいという思いから、各家庭や宿泊施設に配られたという。白馬村の民宿に泊まって、あったかごはんをじんわりと味わうのも一興かと。定価800円+税

 白馬村観光局 http://www.vill.hakuba.nagano.jp/index2.html
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by greenerworld | 2010-10-22 09:34 | レビュー  

[BOOK]フグはフグ毒をつくらない

f0030644_20433146.jpg野口玉雄著
成山堂書店(ベルソーブックス036)
2010年6月28日発行
本体1,800円+税

 「河豚は食いたし命は惜しし」と俗に言う。ブログ子は高級なトラフグ料理などにはとんと縁がないが(最後に食べたのはいつのことだろう)、日本人は縄文時代から性懲りもなく、命を賭してフグを食してきたらしい。

 ところが、フグ毒はフグ自体がつくり出したものではないという。それが証拠に、海底から10m以上離した海面網いけすで養殖されたフグは毒をもたない。もちろん陸上養殖されたフグも無毒。著者は、フグ毒(テトロドトキシン)は、餌を通じてフグに蓄積されていくと考えている。海中にはテトロドトキシンを産生する細菌などの微生物がいる。このテトロドトキシンが、食物連鎖を通じて生物濃縮され、フグにたどり着いているようだ。毒化するフグは、フグ毒に対して耐性を持っている。それで、フグ毒を体内に蓄えることができる。しかしさすがのフグも、大量のテトロドトキシンを摂取(腹腔注射)すると中毒してしまうのだそうだ。

 フグが毒化するのにどんなメリットがあるのか。それは第一に敵に補食されないということである。無毒な養殖フグは免疫力が弱く病気や寄生虫に冒されやすいし、水槽やいけすの中で、かみ合いが起こる。ところが、テトロドトキシンを含む餌を与える(もちろん有毒化する)と、免疫力が高まりかみ合いも減るというから、テトロドトキシンがフグの健康にも役立っていることがわかる。他の捕食生物が食べない有毒な餌を食べることができるということも、メリットの一つだろう。

 養殖されたフグには毒がないとなれば、あの禁断の─フォアグラよりもアン肝よりもカワハギの肝よりも美味と言われる─フグの肝も味わえることになる。しかし、厚生労働省は、これを認めていない。有毒な天然フグと区別することが難しいからだ。それなら閉じられた流通経路の中で厳密に履歴を管理することで、フグ肝を食べられるようにしようと、佐賀県の嬉野温泉は「フグ肝特区」を申請した。ところが、この経済特区申請も厚生労働省から却下された。理由は完全に無毒なフグを生産する科学的な方法が確立しているとは言えないというもの。

 現実にはすでに流通しているトラフグの8割が養殖物なのだという。つまり出回っているフグの多くは無毒。著者らは実際にフグ肝料理の試食会を催し(ただし事前にフグ毒検査をし無毒を確認した)、その美味さを確認した。毒のないフグ肝も今は有害廃棄物として、厳重な管理の元で処理されている。もったいない話だ。

 ちなみに、中には毒のほとんどないフグもいる。西日本でよくフグの一夜干しなどとして売られているシロサバフグやクロサバフグは無毒で素人でも料理できる。有毒なフグも、個人が自分で料理して食べることまで禁じられているわけではない。しかし素人判断、素人調理は危険である。自分で釣ったフグを料理して食べようなどとは、くれぐれも思わないように。
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by greenerworld | 2010-07-09 20:47 | レビュー  

[BOOK]大気を変える錬金術 ハーバー、ボッシュと化学の世紀

f0030644_121278.jpgトーマス・ヘイガー著
渡会圭子訳
みすず書房刊
2010年5月20日発行
本体3,400円+税

 人類に最も寄与した科学技術は何だろうか。活版印刷、内燃機関、発電機……。数々の発明がある中で、おそらく多くの科学史家が5本目までに指を折るだろう技術が「ハーバー-ボッシュ法」である。何しろ、現在65億人もいる人類の半分が、この技術のおかげで生きていられるのだから。

 ユダヤ系ドイツ人のフリッツ・ハーバーは、高温・高圧の条件下、触媒を使い、大気中の窒素と水素から高効率でアンモニア(NH3)を取り出すことに成功し、化学会社BASFに持ち込んだ。それを製造レベルの実用的なプロセスにつくりあげたのが、同社の若き技術者であったカール・ボッシュである。

 窒素はアミノ酸や核酸の成分で、生命には欠かせない元素だ。大気の成分の8割は窒素ガスだが、生物はこの安定した窒素ガスを利用することができない。窒素を生物が利用できるように変えられるのは、自然界では根粒菌のようなバクテリアと稲妻(雷)だけだ。それでは増え続ける人口を養うには、限界がある。19世紀から20世紀初頭にかけて、窒素肥料の原料となる硝石(KNO3)やチリ硝石(NaNO3)は、食糧増産にとって欠かせない肥料として各国の奪い合いになっていた。しかも硝石にはもう一つ重要な役割があった。弾薬の原料として、つまり戦争に硝石は欠かせないのである。

 第一次世界大戦前のドイツ帝国では、急増する人口と膨張する軍事力の両方を支えるには、大量の硝石が必要であったが、それはほぼ100%海外からの輸入に頼っていた。当時イギリスの海軍は世界最強であり、海上を封鎖されればドイツは肥料と火薬の原料を断たれ、惨めにひれ伏すしかなかった。それを避けるには、窒素を自給することである。空気から硝酸をつくること──稲妻がもたらす恵み──には、当時アーク放電という技術がすでに確立されていた。これは人工的に稲妻を起こすようなもので、当然、多くの電気エネルギーを使う。この製造技術は、水力の豊富なノルウェーのような国でなければ成り立たなかった。

 これに対して、ハーバーの考えた方法は、高温・高圧に耐える大型の製造装置さえつくることができれば、かなりの高効率(チリ硝石よりも安い値段)でアンモニアを製造できる。アンモニアは硫安(硫酸アンモニウム)や塩安(塩酸アンモニウム)の形で肥料となる。

 しかし、そのような巨大な製造装置は誰もつくったことがなかった。アンモニアの量産にとってはむしろボッシュの果たした役割の方が重要で、ボッシュがいなければ、ハーバーの技術はけっして実用化されなかっただろう。彼は多くの技術者と資金を注ぎ込み、工業プロセスを完成させる。今からほぼ100年前の1911年、BASFの仮設工場から、大気中の窒素を原料としたアンモニアが生産され、その2年後には本格的な肥料工場が稼働した。同時に彼は高圧化学という新しいジャンルを切り開いた。

 第一次世界大戦では、大量の弾薬が使われた。その原料となるチリ硝石の需要もうなぎ上りだった。ハーバーはアンモニアから爆薬の原料となる硝酸をつくる技術の開発をBASFに持ちかけ、ボッシュはそれに応えた。BASFはアンモニアからチリ硝石を合成し、それをドイツ軍に供給する。人類を養うための技術が、戦争のために転用されたのである。しかしそのお陰でBASFやボッシュの地位は揺るぎないものになる。

 ハーバーはユダヤ人だが、ドイツ人として生きようとした。当時ユダヤ人はあくまで二級国民と見なされていた。ハーバーはキリスト教に改宗し、さらに第一次世界大戦では、自ら仕立てた軍服に身を固め、皇帝のために働いた。彼は皇帝の名を冠した研究所の所長となり、ドイツ軍に毒ガスの使用を進言しその作戦指揮まで行った。やはり化学者であった妻のクララは、夫の軍用銃で自らの命を絶った。

 ハーバーは敗戦によって、戦争犯罪人となりかねなかったが、幸いそれは免れた。しかも、人類に貢献した技術としてノーベル化学賞まで受賞する。しかしヒトラーの登場ですべてが暗転した。ユダヤ人は公職から追放され、ハーバーも金と名誉のすべてを失い、イギリスに亡命する。ほどなく渡航先のスイスで失意のうちにこの世を去った。

 一方、ボッシュは、高圧法を使って石炭を原料にメタノールや合成ガソリンの製造に乗り出す。フォードのT型をきっかっけに、アメリカはモータリゼーションに沸いていた。その燃料となる石油はすぐにでも枯渇しそうだった。ところが、1920年代末アメリカでは次々と新しい巨大油田が発見される。彼らの計画は完全に行き詰まったかに見えたが、国の支援を得ることで何とか乗り切った。彼の合成ガソリンはナチスの戦争遂行を支えることになった。
 ボッシュは、BASFやヘキスト、バイエルを統合させた国策会社のトップについた。ヒトラーは合成ガソリンを必要としていたし、ボッシュは会社の発展を望んでいた。しかし彼は、ナチスに批判的だった。要注意人物と見られ経営の実権を失った。ほしいものを手に入れたヒトラーにはもはやボッシュは不要だった。

 ボッシュが心血を注いで育てたロイナ工場は、軍需工場として連合軍の空爆の標的となった。都市ほどの巨大な工場に大量の爆弾が降り注ぎ、破壊された。しかしボッシュはその結末を見る前に死んだ。

 冒頭、人類の半分がこの技術のおかげで生きていられると書いたが、ハーバー・ボッシュ法のおかげで地球上の人口が65億人にまで増えることができたと言い換えてもいい。しかしそれによって、人類は他の生物を追いやり、過剰な窒素が環境を汚染している。そしてハーバー・ボッシュ法にも限界がある。それは製造プロセスに化石エネルギーを消費していることだ。いまエネルギー価格の安い国でハーバー・ボッシュ法により、大気から窒素肥料がつくられている。その燃料は主に石炭である。石炭もいずれは枯渇する。いずれは貴重な化石資源をエネルギーに使うのか、肥料に使うのかという選択を人類は強いられるだろう。

 もう一つ、たしかに科学技術自体はニュートラルなのかもしれないが、それを使う人間によっていかようにでも応用される。このバーバー-ボッシュ法しかり、原子力もまたしかり。自動車技術も戦争に活用された。ほんとうに平和のための科学技術とは、あり得ないものなのだろうか。
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by greenerworld | 2010-06-11 12:12 | レビュー  

[MOVIE]インビクタス─もう一つの南アワールドカップの物語

インビクタス 負けざる者たち

 今年サッカーのワールドカップが開催される南アフリカは、サッカーはいま一つだがラグビーではニュージーランド、オーストラリアと並ぶ強豪だ。クリント・イーストウッド監督がメガホンをとった「インビクタス 敗れざる者たち」は1995年の南アフリカが舞台。1994年にアパルトヘイトが終了しこの年にはラグビーのワールドカップが開催されたのだ。しかし、アパルトヘイト時代に制裁で対外試合が禁じられたナショナルチーム「スプリングボック」は、直前になっても練習試合で惨めな敗戦を重ねていた。しかも、白人のスポーツであるラグビーは、黒人に敵視され、対外試合では相手のチームを応援する状態。心を痛めたネルソン・マンデラ大統領は、ナショナルチーム主将をお茶に呼び、ある依頼をする。それは人種融和のための壮大な賭だった……。

 ネルソン・マンデラ大統領を演じるのは、イーストウッドの主演・監督作品「ミリオンダラーベイビー」でジムの雑用係の元ボクサーを演じていたモーガン・フリーマン。「オーシャンズ」シリーズのマット・デイモンが、悩めるナショナルチームの主将フランソワ・ピナールを演じている。実話に基づいた映画で、最後には当時の試合の写真が映されるので、それぞれを演じた俳優と比べるのも一興。マンデラ氏は自分を演じてほしい俳優として、フリーマンを指名していたそうだ。

 Invictusはラテン語で「征服されない」という意味で、マンデラ氏が獄中で心のよりどころにしていた詩のタイトル。この映画ではアパルトヘイト時代は描かれていないので、「マンデラの名もなき看守」を事前に観ておくことをおすすめします。
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by greenerworld | 2010-02-09 21:20 | レビュー