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奴隷的労働と企業の社会的責任

 塩野七生氏の『日本人へ 国家と歴史篇』(文春文庫)を読んでいたら、イタリアのブランド品についての話が出ていた。イタリア国営放送の番組が、イタリアの有名ブランド品の製造実態について、暴露したという内容。

 イタリアでは、製品の30%が国内で作られていれば、イタリア製として認められるため、有名ブランドのいくつかは、7割までを中国で作り、残り3割を国内で作って「メイド・イン・イタリー」として売っている。しかも、その3割も、イタリア国内にいる(不法入国した)中国人が作っているというのだ。彼らは低賃金で働くばかりか、不法入国・就労がばれれば国外退去になるから、地下室や車庫の中で生活と仕事を行い、外出もせずに過ごしているという。まるで現代の奴隷労働だが、まあそれでも彼らは望んでイタリアに来たのだろうから、そこは奴隷とは違う。

 塩野氏は「これによって、イタリアの伝統でもあり、高度な技能とアイデアの豊かさを誇ってきた職人層が、壊滅的な打撃を受けた」と嘆くのだが、こうしたことはわが日本でも起こっていそうだ。

 しかしその中国も著しい経済発展で、今や低賃金の労働者が不足しがちだというから、ここ数年で状況は大きく変わっているのかもしれない。中朝国境に近い中国北東部の吉林省や遼寧省の工場に、北朝鮮から大量の労働者を送り込むというニュースがいくつかのメディアで報道された。北朝鮮からのこうした出稼ぎ労働者はシベリアや東欧や南アなどへも派遣されているが(イタリアにもいるという話もある)、国家により監視され、外出の自由もないような中で働かされているという。その賃金もかなりがピンハネされているというのも、よく聞く話だ。だとすればこちらこそ実態は奴隷労働に近い。

 今回の中国への出稼ぎもこのような形で行われるのだろう。イタリアとは違い元々単純労働を代替するだけだから、中国の職人層に打撃を与えるということはなさそうだが、こうした奴隷的な労働を国と国(省)が認め合うというのだから、ひどい話である。

 折しも、11月1日に社会的責任の国際規格であるISO26000が発行された(ただし手引書という形で、第三者認証を伴うマネジメント規格ではない)。この中身についてはいずれまた紹介したいと思うが、策定に関わった国際労働財団副事務局長の熊谷謙一氏によると、その焦点は「人権」と「労働」であるそうだ。体制的にも経済的にも一体化を進めようとする中国と北朝鮮だが、日本企業が、間接的にせよ、こうした北朝鮮労働者が働く企業から製品・部品を調達すれば、北朝鮮の体制を利することになるし、社会的責任上も大きな問題だ。よくよく注意が必要である。

by greenerworld | 2010-11-04 10:46 | エコエコノミー  

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