東京・羽村市の無暖房住宅を訪問
2014年 01月 25日

東京都知事選が始まり、脱原発が争点になっている。残念ながら、エネルギーの議論は相変わらず「電気」に偏っている。原発や化石燃料から自然エネルギーへ、という「エネルギーシフト」の前に、エネルギー使用量そのものを減らすという根本のところをきちんと考えなければいけない。
エネルギーを使わない社会をつくるには、大きく分けて二つのアプローチがある。一つは、総合的なエネルギー効率を高めることで、電気を作るために失っている廃熱を有効利用したり、電気でなくともいいことに電気を使わないこと、である。発電時に投入されるエネルギーの6〜7割は熱として失われている。太陽光やバイオマスも、電気に変えるより熱として使う方がずっと効率がよい。もとよりわれわれが使うエネルギーの半分以上が熱、それも低温の熱なのだ。
もう一つは使う場面でのエネルギーの大幅な削減である。それには、いわゆる節電や省エネではなく、根本的にエネルギーを使わない構造に転換すること(「行動の省エネ」から「構造の省エネ」へ)が肝心。家庭での冷暖房に使われるエネルギーは大きいが、それをがまんするのではなく、使わなくても快適に過ごす方法がある。これを減らすことは社会のベースエネルギー消費を下げる意味がある。
1月25日に、東京・羽村市の一級建築士・関口博之さんの、住居兼事務所を見学させていただいた。南側全面がガラス張りのいわゆるパッシブソーラーハウス(機械力を使わずに暖かくまたは涼しく過ごせる家)である。建物の構造は地元産木材を使った伝統構法、壁は自ら塗った土壁、その後少しずつ断熱工事を加えて、昨冬からは真冬でも晴れた日なら一日中(24時間)暖房はいらなくなった。曇りや雨・雪の日は薪ストーブを焚くが、それもわずかですむそうで、庭の木々の剪定枝や建材の端材で間に合ってしまうという。
この家、特に目新しい素材を使っているわけではない。建物の南面はほぼ全面ガラス。ただし、その一部には内側に土壁がある。日射があたるとこの土壁が温まりって室内に放熱する。ガラスと土壁の間には少しすき間があり、温まった空気は部屋に循環する。いわゆるトロンブウォールと呼ばれる手法だ。また、冬は太陽高度が低いので、居間の奥まで日射しが届く。ちょうどそこに台所との間仕切りとして大谷石が積まれていて、日射はこの大谷石も温める。土壁や大谷石は蓄熱体となり、日が沈んだ後も暖かさを保つのである。
ただし、いくら熱をためても建物から熱が逃げてしまえば、何もならない。もともと木と土壁で、あまり断熱性はよくなかった家だが、段ボールと梱包用のエアーパッキン(あのプチプチです)、それを障子紙でくるんだ手製の断熱材を屋根裏にはめ込んだり、すき間を塞いだりという手当を少しずつ施していったそうだ。
この日はあいにく薄曇りだったが、家の中はほんのりと暖かい。放射温度計を当てると、南側の土壁の表面は15.6℃あった。快晴だと40℃くらいまで上がり、輻射熱が熱く感じるそうだ。
日が沈むと窓の外をアルミを張ったシートを下げて塞ぐ。家の中は折りたたみ式の障子窓を閉める。窓からの熱放射を防ぎ、屋内に熱を保つためだ。
「今朝7時の外の気温は0℃、室内は13℃ありました」と関口さん。もちろん夜間を通じて暖房はしていない。
一方夏は庇とブドウ棚で日射を遮り、屋内の気温上昇を防ぐ。温まった空気は上昇するので、屋根裏から高窓を通じて外に抜く。庭に植えた落葉樹は緑陰をつくり、照り返しと外気温の上昇を抑えてくれる。一方、夜間には窓を開けて通風することで土壁や床、大谷石を冷やす。これらの素材は冷えるとともに湿気を吸い込み、気温が上がって湿度が低くなれば湿気を放出して温度が下がる効果がある。外気温が35℃でも室内は30℃に保たれるという。

かくして夏冬とも冷暖房に大きなエネルギーを使わずにすみ、電気使用量は平均100kWh/月程度になった。これは一般家庭の3分の1に過ぎない。給湯用には200リットルの太陽熱温水器を設置、その効果で平均LPガス使用量は4〜5㎥/月(一般家庭の半分以下)、トイレで流す水には屋根に降った水をためて使っており、水道使用量も9㎥/月(同3分の1)ですんでいる。これは事務所兼用の住居(5人家族)としては、驚異的に少ないといえる。
きちんと断熱を施し、太陽光を有効に使うならば、晴れる日の多い関東以西の太平洋側では、ほとんど暖房は不要にできると考えているが、関口邸はそれをまさに実践している。この家では使っていない暖房灯油代も考えると、年間に光熱費20〜25万円ぐらい節約できる計算。設備投資に300万円くらい余分にかかっても、十数年で元が取れる。今後燃料費や電気代が上昇していくことを考えれば、回収期間はもっと短くなるだろう。
日本でこうしたパッシブ冷暖房が注目され研究されたのはオイルショック後。実験住宅も建設され、取り組む建築家も少なくなかったのだが、その後の逆オイルショック、バブル経済ですっかり「忘れられた技術」になってしまった。今ハウスメーカーが取り組む「エコハウス」は自然の風や冷気、日射を活用するために、センサーや電動ルーバーなどを組み込んだハイテク仕様だ。関口さんが提案するのは「手間がゆとりを生む家」。環境とつながりつつ快適にすむためにはひと手間を惜しまないことが大切だと思う。
一級建築士事務所・関口建築+生活Lab
http://blogs.dion.ne.jp/sekiguchi_lablog/
by greenerworld | 2014-01-25 19:43 | エネルギー