
生き物好きの少年少女時代を送った方なら、ハリガネムシのことはご存知でしょう。秋に、カマキリのお腹の中から出てくる細長い生き物です。ハリガネムシは秋から冬にかけて水中で交尾し、卵を産みます。その後かえった幼生は、水生昆虫の幼虫の体内に潜みます。やがて羽化して陸上に飛び立った水生昆虫の成虫が、カマキリやバッタなどに食べられると、その体内で栄養をかすめ取りながら成長し、最後にはホスト(宿主)の行動をコントロールして、水辺に向かわせるパラサイト(寄生生物)です。ハリガネムシ以外にも、ホストを操るパラサイトは数多くいます。
そんなパラサイトの世界を紹介した新刊が『
ゾンビ・パラサイト──ホストを操る寄生生物たち』(岩波科学ライブラリー)です。ちょと不気味で不思議なパラサイトの世界をお楽しみください。私たち人間もどうやら、パラサイトによる行動操作と無関係ではなさそうなのです。
<目次>
はじめに
第1章 ゾンビアリは真昼に死ぬ――菌類と動物の攻防
物語の中の寄生キノコ/中世の麦角中毒/冬虫夏草=昆虫寄生菌/ゾンビアリの最期の一噛み/菌・植物・昆虫の共進化/菌類とアルツハイマー病
第2章 カマドウマの入水自殺・カワムツの奇行――パラサイトがつなぐ生態系
ハラビロカマキリの行列/ナゾの多いハリガネムシ/河川生態系機能を改変/ハリガネムシがホストを操るしくみ/カワムツの行動を変える吸虫/脳内神経伝達作用の攪乱
第3章 体の中の“エイリアン”――ホストをゾンビ化する捕食寄生者
ミツバチはなぜ消えるのか/セイヨウミツバチのパラサイト/ミツバチに新たな脅威――ゾンビ蠅/ホストを食い尽くす「捕食寄生」/ホストと捕食寄生者をめぐる複雑な関係/ウイルスによるホスト免疫系の乗っ取り/ゾンビ化したホストをボディーガードに/クモをゾンビ化するクモヒメバチ
第4章 人はパラサイトに操られるのか――原生生物トキソプラズマとネコと人類
農耕の始まりとネコの拡散/人類の3割が感染するパラサイト/ネコを恐れないネズミ/トキソプラズマと精神疾患/原因はドーパミンか?/トキソプラズマの3系統とその広がり
あとがき