管理者へのメール / 管理者のプロフィール


カテゴリ:花鳥風月( 76 )

 

ヤドリギとクリスマス


(『科学」2016年2月号 連載「パラサイトの惑星」(小澤祥司) 第5回 樹上と林床の異形たち より)

 葉を落としたはずの落葉樹の枝先や幹に、冬になっても青あおとした葉や枝のかたまりが目につくことがある。その名をヤドリギ(宿り木)とはよく付けたもので、ランやシダの仲間によく見られる着生植物とは異なり、根を宿主ホストの組織内に食い込ませて、水分や無機栄養分を奪い取る寄生植物だ。ただし、エネルギーは自ら光合成を行ってつくりだすので、正確には半寄生植物(hemiparasitic plant)という。
 単にヤドリギというと学名Viscum album album(和名:オウシュウヤドリギ)の亜種V. a. coloratumを指す。常緑で、ケヤキやエノキなど落葉広葉樹の枝や幹に着いてこんもりとした形状をなすため、冬になると遠目からも目立つ。一方、広義のヤドリギ類として、オオバヤドリギ、ヒノキバヤドリギなどが国内で見られる。全てビャクダン目に属する半寄生植物である。
 ヤドリギのことを英語でミスルトウ(mistletoe)というが、これはアングロ=サクソン系の古語で「異なる枝」を意味する。ホストが葉を落とす秋から冬にかけてその存在がよく目を引くのは、時代と洋の東西を問わない(ただしヨーロッパのヤドリギには常緑の針葉樹をホストとする亜種もある)。
 古代ケルト社会では、冬至後最初の新月を過ぎて6日目に、祭司であるドルイドが神聖なオークの木についたヤドリギを黄金の鎌で切り落として、人びとに分け与えた。このとき決してヤドリギを地面に落としてはならないとされていたのは、その聖なる力が失われるからである。ヤドリギは魔除けとしてそれぞれの戸口に掲げられた。ヤドリギにつく白い実の粘り気のある汁は神の精液と考えられており、ヤドリギは豊饒と多産の象徴でもあった。同時にさまざまな病気を癒す万能薬であり、性欲を高める媚薬としても用いられた。
 北欧神話に登場する美しき太陽神バルドルは、悪神ロキに騙された弟のヘズに、ヤドリギの毒矢で射ぬかれて死んでしまう。息子の死を嘆き悲しんだ愛と美の女神フリッガが流した涙はヤドリギの実に変わり、バルドルも息を吹き返す。それ以来ヤドリギは愛の象徴とされ、その下を通る者にはキスを与えなければならないと定められた。
 ケルトの風習や北欧の伝承がのちにやってきたキリスト教の聖誕祭=クリスマスと融合した。欧米ではではクリスマスにヤドリギのリースが飾られる。そしてその下に立った者はキスを拒んではならないというしきたりがある。
 オーストリア出身の思想家・教育者ルドルフ・シュタイナーが考案した「人智医学」では、ヤドリギの抽出液が癌治療に用いられる。中国医療では乾燥させたヤドリギを生薬として用いることがある。また最近の研究によると、ヤドリギの成分が肥満性の脂肪肝の脂肪代謝を促す作用があるという。ただしヤドリギはビスコトキシンやレクチンといった有毒成分を含んでおり、実を食べて腹痛や下痢を起こすこともあるようだ。厚生労働省のサイト「健康食品の素材情報データベース」には、ヤドリギについて「ヒトにおける有効性や安全性については、調べた文献に信頼できる十分なデータは見当たらない」とある。
 北海道アイヌの人たちの間でヤドリギはニハルと呼ばれ、食用や薬用に使われることがあったという。しかし日本ではそれ以外にヤドリギを利用する例は見られず、ヤドリギに関する伝承も見あたらない。むしろ、木を弱らせるとして駆除されてしまう場合も少なくない。もとより都会ではヤドリギの着くような木も少なくなり、頭上を見上げる余裕すらなくしている。
 だがヤドリギには、何か人をひきつける魅力がある。一度その存在を知ってしまうと、冬にはつい落葉樹の枝先に目が行き、ヤドリギを探してしまうようになるのである。


[PR]

by greenerworld | 2017-12-26 11:32 | 花鳥風月  

お茶の実と太平洋戦争

 父の葬儀をした葬祭場から火葬場にかけては丘陵の裾で茶畑が多い。大阪から駆けつけてくれた父の従兄弟が、「このへんまで茶の実拾いに来よったなぁ」と懐かしげにポツリともらした。

f0030644_920397.jpg 父の従兄弟は先の戦争時、掛川にある母親の実家(つまり私の実家)に疎開していた。その時に軍の命令で茶の実集めをさせられたというのだ。チャノキはツバキの仲間で、冬に果実の外皮が割れて中に2〜3個入っている実がこぼれる。硬い殻に包まれた実には油分が多く、それを搾って燃料にしようとしたらしい。

 「今で言うバイオマスエネルギーやな」

 エンジニアだった父の従兄弟が言う。

 「そんなもん集めたかて、どないもならんと思うけどな」

 たしかに子どもらが歩いて集めた茶の実の量など知れたもので、実際に使われたかどうかもわからない。それでも子どもたちは日本の勝利を信じて茶畑を歩き回っていた。ちょうど70年前の今ごろの季節のこと。
[PR]

by greenerworld | 2014-12-19 09:25 | 花鳥風月  

黄砂の季節です

 黄砂の季節がやってきた。花粉症を引き起こすスギ花粉の大きさが30μmほど(μmは1000分の1mm)なのに対して、黄砂の粒子は平均2〜3μm程度。この小ささゆえに、いったん舞い上がると長く空中に浮遊する。世界には北アフリカ、中央アジア、オーストラリアなどに大きな砂漠・乾燥地帯がある。そこで砂塵嵐(ダストストーム)により巻き上げられた細かい鉱物粒子が上空に達し、低気圧の移動に伴って遠く離れた地域に運ばれる。これらを総称して「風送ダスト」と呼ぶ。大気中に漂う風送ダストの総量は全体で20億トン以上あると言われる。その半分が北アフリカのサハラ起源だ。

 一方、日本にやってくる風送ダストは主にモンゴルや内モンゴルの乾燥地帯が源。ここで巻き上げられた鉱物粒子が、ジェット気流に乗りはるばる日本までやってくる。これを「黄砂」と呼んでいる。もっとも日本には黄砂ばかりでなく、北アフリカや中東起源のダストも届いているようだ。風送ダストは地球規模で移動している。黄砂も遠くハワイや北アメリカまで到達しているという。

f0030644_14322736.png

黄砂の発生源と日本(SPRINTERS 大気エアロゾル(微粒子)予測動画2013.3.9より)


 風送ダストは北極や南極、グリーンランドの氷の上にも積もっているので、氷床をボーリングすると過去に積もったダストを採取することができる。これを分析したところ、地球が寒冷化した氷河期にダストが多くなっていることがわかった。氷河期には極地方と赤道地方の温度差が大きくなり、低気圧やジェット気流が強まると同時に乾燥化が進むので、風送ダストの量も増えると考えられている。

 風送ダストは赤外線を吸収する温室効果と太陽光をはね返す作用を併せ持つ。また海に降り注ぐダストは、外洋で不足する鉄分を補給し植物プランクトンの増殖を助ける。植物プランクトンはCO2を固定し、やがて深海に沈降することで、大気中のCO2を取り去り、ゆっくりとではあるがやはり温暖化を緩和する働きがある。一方で雪や氷の上にダストが降り積もれば、雪氷を溶かし太陽光をはね返す力を弱めると同時に、そこに生える地衣類などの栄養となる。ざっと見ただけでも、気候変動に対して実に複雑な作用を及ぼす。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がこれまで発表してきた気候変動モデルには、風送ダストの影響はまだ十分に反映されているとは言えないそうだ。

 「黄砂アレルギー」という言葉が使われるようになったが、実際に動物実験では風送ダストがアレルギー症状を悪化させるという結果が得られている。微粒子であるダストそのものが免疫系に悪影響があるのに加え、付着しているカビや細菌由来成分がアレルゲンとなると考えられる。またNOx、SOxのような酸性の大気汚染物質がダストと結びついて運ばれることも考えられる。発生源に近い中国北東部や朝鮮半島では地表付近に漂う黄砂の量も多い。韓国では黄砂現象があった期間に65歳以上の高齢者の死亡率が2.2%増加、とくに気管支疾患が原因の死亡率が4.1%高くなったという報告がある。「春の風物詩」とばかりは言っていられない。
[PR]

by greenerworld | 2013-03-09 14:41 | 花鳥風月  

セミが鳴かないのは……

 東京ではいまのところセミがあまり鳴かない。自宅周辺でもニイニイゼミをときどき聞くくらい。いつもだともうアブラゼミが庭の木に来てやかましく鳴くのだが。ミンミンゼミの初聞きは25日で、アブラゼミは今日30日。アブラゼミのぬけがらは1週間前に確認している(写真下)し、鳴き始めとしてはいつもより1週間から10日程度の遅れなのだが、数が少ない。
f0030644_14332195.jpg

 こういう事態に「放射能の影響ではないか」とネット上で話題になっているようだ。しかし、今週調査に入った飯舘村では、エゾゼミ、ヒグラシ、ニイニイゼミが盛んに鳴いていた。そもそも幼虫は地面の中にいるので、地表にとどまっている放射性物質の影響は受けにくいはず。羽化の時に少量の放射線の影響を集中して受けるとも考えにくい。セミが少ないのは何か別の原因だろう。専門家は地中の積算温度が羽化に影響を与えると言っている。春先に地温が低かったことで羽化が遅れているのだろうという話だ。

 ところが数が少ないのはこれだけが理由ではなさそうだ。で、過去に遡ってみた。セミの幼虫は種類や条件にとって異なるが4〜5年地中で過ごすといわれている。今年のセミの親の多くが成虫になったと思われる5年前の2006年は梅雨明けが遅く、関東では7月30日、翌年2007年は8月1日までずれ込んでいる。このことは産卵数に影響していないだろうか? あるいはこの年に天敵が多かったとか? これから増えるかもしれないし、鳴き始めの遅い年は秋まで鳴いていることもある。まあ結論はもう少し待ってみよう。
[PR]

by greenerworld | 2011-07-30 14:41 | 花鳥風月  

ヒヨドリ去ってジョウビタキ来る

 今年は庭にヒヨドリが来ない。餌が少なくなるこの時期、ヒヨドリは隣の畑の青菜を食べに来る。地面が苦手な彼らは、群れでやってきて庭木の枝に止まり、畑に降りて青菜の葉をついばんでは枝に戻る。ついでに緑色の糞を大量に落としていく。

 ヒヨドリが来ないのは、昨年暮れに庭木の枝をきれいさっぱり落としてしまったせいだ。例年は雨戸を開けると、枝に鈴成りになったヒヨドリの群れが、ピーピーとけたたましく鳴きながら一斉に飛び立つのだが、今年はそれがない。代わりに今朝は雨戸を開けたらジョウビタキがいた。ガラス越しに見ていると、こちらを警戒しながら、フェンス、プランタのふちと、少しずつ低いとことへ降りてくる。ようやく警戒を解いて地面に降り、先日の風で落ちたヘクソカズラの実をついばみ始めた。

 それにしても、ジョウビタキがプルプルと尾を振るのは、何の意味があるのだろう。
[PR]

by greenerworld | 2011-01-12 07:42 | 花鳥風月  

謹賀新年:新作まとめて

 皆様、明けましておめでとうございます。今年もグリーナーワールドをよろしくお願い申し上げます。

 さて、年末年始は引き籠もっておりましたゆえ、久しぶりに句作にふけりました。恥ずかしながら、いくつか駄句を紹介させていただきます。

 <冬>
 朝練に急ぐ子高き霜柱
 よく笑う母の氷下魚のごとき指
 深々とわが頬を刺す冬の星
 雑踏を交わりて往く白吐息
 本棚に柳田国男日向ぼこ
 朝採りの卵のごとき蕪甘し

 <新年>
 忘れしはみな名句なり初昔
 失敗してもくよくよしない去年今年

 新年のご多幸とご繁栄を心よりお祈り申し上げます。合掌

 
[PR]

by greenerworld | 2011-01-04 15:18 | 花鳥風月  

カナヘビとヤモリ仲良く

 年末を迎えて庭の片付け。レンガをどけたら、すき間にカナヘビとヤモリが冬眠していた。寒い生で動きが鈍い。それでもヤモリはちょろちょろと逃げようとするが、カナヘビはひっくり返ってもそのまま動かないので、死んでいるのではと思ってつかんでみたらようやくもそもそと動き出した。レンガを別のところに移動させ、カナヘビ君とヤモリ君にもそちらに引越してもらった。
f0030644_1912393.jpg

[PR]

by greenerworld | 2010-12-18 19:13 | 花鳥風月  

お金持ちになるおまじない

f0030644_1584441.jpg
 昨日の朝、ようやく初霜。夜から朝方にかけては冷え込むが、昼は風もなく小春日和である。市役所に用事があって自転車をこいでいたら汗ばんできた。途中の畑地帯に、ムクノキとイイギリの大木があって、薮状になっている場所がある。灌木にカラスウリがたくさん絡みついて、ぶら下がっていた。カラスウリの別名は天瓜(てんか)。高い場所に実があることから天の字を与えたのだろう。あせもの予防に使う天花粉は元は天瓜粉で、カラスウリの根からとったでんぷんだった(最近はベビーパウダーと呼ぶのが普通で、若い人に天花粉と言っても通じませんね)。
f0030644_157523.jpg カラスウリの実を割ると中に黒い種がいくつも入っている。カマキリの頭を連想させるが、見方によっては大黒様にも見えるので、財布に入れてお金が儲かるおまじないにする。ブログ子の財布にも入っているが、小銭入れのせいか、さっぱりお金が増えない。ほしい方には格安でお分けしますよ(笑)。
[PR]

by greenerworld | 2010-11-30 15:10 | 花鳥風月  

ケヤキの工夫

 ようやくケヤキがだいぶ落葉して、ほうきを逆さに立てたような樹形が目立つようになった。ところで、ケヤキには2種類の落ち葉があることをご存じでしょうか。一つは一枚ずつ落ちる普通の葉、他に小さな葉がまとまって枝についたまま落ちている葉がある。
f0030644_9304435.jpg
 これをよく見ると、葉の元にこぶのようなものがついている。これはケヤキの実。何でこうなっているかというと、拾い上げて放り投げてみるとわかる。ちょっと回転しながら落ちるはず。つまり、風に乗って実(種)を少しでも遠くに飛ばそうということになっているんです。だから実も小さくて軽い。この時期、木枯らしがびゅうと吹くと、普通の葉に少し遅れて、これらの実をつけた葉がひらひらと舞い落ちるさまが見られる。近い仲間のエノキやムクノキは甘い実をつけ小鳥に食べられて種を運んでもらうが、ケヤキは風まかせ。そんなところにも、ケヤキの「孤高」を感じます。

 地面に積もったケヤキの葉をかき分けて、試してみてください。
[PR]

by greenerworld | 2010-11-28 09:43 | 花鳥風月  

蟷螂の斧

f0030644_20113440.jpg
 晩秋はカマキリがよろよろと道ばたを歩き回っているのに出くわす。産卵を終えたメスカマキリだろうか。近づくと前脚を振り上げてこちらを威嚇する。「蟷螂の斧」だ。広辞苑に「自分の微弱な力量をかえりみずに強敵に反抗すること」とある。じきに命が尽きることがわかっているだけに、何だか痛々しい。

 あちらの国の将軍様も蟷螂に近い存在だと思うが、その斧はかなり強力だ。東アジアが準戦時体制にあることを改めて考える。
[PR]

by greenerworld | 2010-11-24 20:12 | 花鳥風月